「新時代の赤字」に搔き消される旅行収支黒字

下記、図表1-5はサービス収支の変遷をより分かりやすくしたものだ。本書執筆時点で最新となる2023年とその前年の2022年、そして10年前となる2014年を比較している。

 

例えば2014年と2023年を比較すると、サービス収支全体で見れば▲3兆335億円から▲2兆9158億円とほぼ横ばいで、特筆するほどの変化ではない。しかし、既に論じたように、サービス収支の中身では大きな変化が打ち消し合っている。

2014年から2023年の10年間について項目別の変化を見ると、まずポジティブな変化としては旅行収支が▲444億円の赤字から+3兆6313億円の大幅黒字へ転換していることが目に付く。その一方、同じ期間にその他サービス収支の赤字は▲2兆3239億円から▲5兆9040億円へ約2.5倍に膨らんでいる。

注目度の高い旅行収支の黒字拡大ペースは確かに早いものの、それに匹敵するほどの変化がその他サービス収支で起きている。恐らく、前者を知っていても後者は知らなかったという読者は多いだろう。近年の日本では経常収支におけるサービス収支、特にこれを構成するその他サービス収支の赤字が膨張しているという事実が見逃せない。

経常収支全体の仕上がりを議論しようとすると、どうしても動きが激しくヘッドラインにもなりやすい貿易収支や、経常収支黒字の主柱である第一次所得収支、そしてインバンドと共に世間を賑わせやすい旅行収支に注目が集まる。

だが、その他サービス収支の赤字は明らかに無視できない変化と規模を備えている。その他サービス収支は非常に多くの項目から構成されており、その中身を調べるほど、「新時代の赤字」と呼ぶに相応しい性質を備えていることに気づかされる。同時に、日本経済がこれから付き合っていかねばならない新しい課題を含んでいるとも言える。

●第2回は【国も“デジタル小作人”? 日本の頭脳流出による「デジタル赤字」の正体に迫る】です。(9月27日に配信予定)

弱い円の正体 仮面の黒字国・日本

 

著者名 唐鎌 大輔

発行元    日経BP 日本経済新聞出版

価格 1,100円(税込)