専業主婦の生きがい
専業主婦である美律子の生きがいは、マイホームを美しく保つこと。ちょうど4年前、息子が小学校に入学したころに、こだわり抜いて建てた大切な家だ。まず家族がくつろぐリビングルームには大きな窓があり、自然光がたっぷりと差し込む設計になっている。もちろん部屋の中には美津子が時間をかけて選び抜いた家具が並び、シンプルでありながらも洗練されたホテルライクな印象を与えてくれる。くだんのダイニングキッチンには最新の設備が整い、料理をするのが楽しくなるような空間だ。さらに玄関先には、かわいらしいガーデニングスペースがあって、季節ごとにさまざまな植物が育っている。美津子は、そんな理想の自宅を人に見てもらうのが何よりの楽しみだった。
もともと料理が得意なこともあって、家を建ててからは月に1、2回ゲストを招いて手料理を振る舞うのが当たり前になっていた。今日のゲストである息子の同級生家族とは、息子が幼稚園に通っていたころから家族ぐるみの付き合いで、マイホームが完成した後、友人たちの中で1番最初に招いたゲストでもある。
ホームパーティーを楽しみにしてくれている彼らは、時間をかけて作った手料理を盛大に褒めてくれるので、美津子もおもてなしのしがいがあると感じていた。育ちざかりの息子たちは、美津子が作った食事をいつもペロリと平らげると、リビングでゲームを楽しんだり、大きなテレビでアニメを見たりして過ごすことが多い。父親たちの方も、子供たちのゲームに付き合ったり、手入れが行き届いたガーデンを眺めながら酒を飲んだり、リラックスして過ごしているようだ。美津子たちも母親同士、ゆっくり紅茶を飲みながらたあいのないおしゃべりをすることで、良いストレス解消になっている。
そういうわけで完璧に手入れされた家で開催するホームパーティーは、美津子にとってなくてはならない時間になっている。
夫と息子も美律子が家をきれいに保っていることをうれしく思ってくれているらしく、夫は仕事から帰宅するたびに、整然としたリビングやいろどり豊かな料理が並んだテーブルを見て、感謝の言葉を口にする。
「美律子のおかげで、毎日家に帰るのが楽しみだよ」
最近急に大人びてきた息子も、友達を家に招くたびに誇らしげに家の中を案内したり、美津子が作ったお菓子を勧めたりしている。
「このお花もハーブも、全部うちのお母さんが育ててるんだよ。すごいでしょ?」
美津子自身も、そんな家族の姿を心からうれしく思い、ますます家の手入れに力を入れた。家族で過ごす自宅を常に快適で居心地の良い場所にすることが、美津子のよりどころでもあった。