家族の全面的なサポート
開業に向けて、予算の制約や設備のチェック、メニューの試行錯誤など、やることは山のようにあった。
健治は全面的に美織をサポートしてくれたし、娘も軽口をたたきながら自分にできることを率先して手伝ってくれた。
特にカフェで提供するメニューの開発については、2人の意見を参考にさせてもらい、低糖質でヘルシーなパンやスイーツなどを取り入れた。看板メニューが完成し、無事にアルバイトも雇うことができた美織は、いよいよカフェのオープン日を迎える。
こだわったアンティーク調のインテリアに、自分たちでも塗布を手伝ったしっくいの壁。入り口に飾ったドライフラワーのモニュメントに、会社勤めのときに知り合ったデザイナーと何時間も打ち合わせをして作り上げたショップロゴ。もちろん入念に試行錯誤を繰り返して完成したメニューも。
どこを切り取っても満足のいく自分の店だった。
「ママ、いよいよだね」
「緊張するなぁ……」
オープン当日は、健治と香奈も店を手伝ってくれることになっている。天気はあいにくの曇天だったが、入念に準備と宣伝を重ねてきたから不安はない。
「なんで健治が緊張するのよ」
「え、2人は緊張しないの?」
「緊張してるに決まってるじゃない」
言いながら、3人そろって笑いが絶えきれなくなる。
「本当に私のお店がオープンするのね……頑張って、絶対に成功させてみせるから」
美織は静かに、力強く宣言する。見上げた空から、しとしとと雨が降り始めた。
●いよいよオープン。しかしこの雨が示唆するように、カフェ経営は簡単にはいかなかった……。後編【 「1000万円で開業」したカフェに閑古鳥が…オーナー主婦が赤字経営とバイトへのパワハラを改めた「大切なきっかけ」】にて、詳細をお届けします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。