誰も不幸になってほしくない
こうして茉莉の結婚のあいさつは最悪な形で終わった。自宅に帰り着いたころにはくたくたで、茉莉は緊張からの解放と落胆でソファに倒れ込むように沈んだ。
まだ見た目に関しては対策ができる。それでも年齢差に関しては茉莉にはどうすることもできなかった。
「……ほんとごめん」
「全然、大丈夫だよ。やっぱり、ダメ、だったかぁって感じ」
「大丈夫な人の顔じゃないよ。ほんとにごめん」
隣りに座った憲也が茉莉を優しく抱きしめる。
「俺は茉莉と一緒にいられたらそれでいいよ。だからさ、母さんのことなんて気にせず、結婚したって平気だよ」
「でも、そんなことしたら、憲也とお義母(かあ)さんが…」
「別にどうでもいいよ。今日のはさすがに俺もビビったし。それに、別に元から仲のいい家族ってわけでもないし、今更だよ」
憲也の覚悟が伝わる言葉だった。茉莉は憲也の手を握る。
「まだそんな焦ることないよ。しっかりと話したら、お義母(かあ)さんだってちゃんと分かってくれると思う」
「茉莉が、いいなら、それでいいけど……」
美也子は確かに厳しい言葉を浴びせてきた。もちろんそれは理不尽なものであることに代わりはないが、憲也を思ってのことなのだと理解はできる。
だからこそ、自分との結婚が原因で、2人の仲が引き裂かれるようなことはあってはいけない。
どうにかして、美也子に認めてもらいたい。誰も不幸にはなってほしくなかった。