<前編のあらすじ>
アパレルショップで店長をしている茉莉(39歳)は、半年前にマッチングアプリで出会い、今では同棲をしている憲也(27歳)からプロポーズを受けた。
結婚や出産に意欲的だったわけではなく、40手前まで独身でいた茉莉は、憲也との年の差も気になったが「年齢なんて単なる記号だ」と言ってくれた憲也の思いは素直にうれしく思い、結婚することに決めた。
そして、初対面となる義母へあいさつに義実家へ行くと、そこには義母・美也子(50歳)の信じられないような冷たい態度が待ち構えていた……。
●前編:「私の方が年が近い」結婚したい“13歳年上彼女”に立ちはだかるモンスター義母の「エグすぎる態度」
私の方が年齢が近いじゃない
「大丈夫? ごめんね、まさか母さんがそんな古臭い考え方をしてたなんて全然知らなくてさ……」
声を潜めた憲也は茉莉を気遣うように肩をたたく。
「ううん、大丈夫」
義母となる美也子にきちんと認めてもらわないと、と気を引き締めて、家の中に入った。広い客間に通されて、茉莉と憲也は美也子と机を挟んで腰を下ろした。
「あの、今日はこのような日を設けていただき、ありがとうございました。これ、私が家で漬けてきたズッキーニの漬物です。もし良かったら……」
「へぇ、料理が得意なの。こんな小洒落(こじゃれ)たもの、作ろうと思ったことすらないよ。おばさんはダメね」
美也子の声は相変わらず鋭く、取りつく島がない。言葉の裏にある茉莉への嫌悪を隠そうとするそぶりすらなかった。客間の空気は最上級に険悪になっている。
「母さん、俺たち、結婚することにしたよ。今日は改めて報告に来たんだ」
茉莉はゆっくりと頭を下げる。緊張と戸惑いで、正直もう何がなんだか分からなくなっていた。それでも深く息を吸い、用意してきたあいさつの言葉をつむいでいく。
「憲也さんとはかねてよりお付き合いをさせていただいておりましたが、先日プロポーズをしてもらいました。私としても憲也さんと幸せな家庭を築いていきたいと思っておりますので、お母さまにも――」
「私はあなたのお母さんじゃないわ」
「あの、失礼しました。……えっと、私としても憲也さんと幸せな家庭を築いていきたいと思っており、憲也さんのお母さまにも結婚を認めていただきたく、本日はお伺いをさせていただき」
「本当に大丈夫なの?」
今日のために何度も頭のなかで繰り返し考えてきた言葉は、ぶっきらぼうで冷たい言葉に遮られた。
「母さん、どういう意味だよ?」
「あなた、年齢はいくつ?」
返す刀で突きつけられた質問に、茉莉はゆっくりと答える。
「……39歳です」
美也子の眉間に深い縦皺(じわ)が寄る。
「私はね、こないだ50歳になったの。憲也を生んだのは23のとき。まあ時代なのかもしれないけどね、憲也より私のほうが年が近いじゃない。39歳で無事に元気な赤ちゃん産んで、育てられるのかしら」
茉莉は黙り込んだ。確かに年齢のことは気になっていた。憲也は気にしないと言ってくれたが、それでも、出産や子育てのことを考えれば気にせずにはいられない問題だった。
美也子の言い方は鋭く冷たいが、言っていることは正論なのかもしれない。どれだけ男女平等をうたっても、女のからだは不自由だった。
「俺が気にしないって言ったんだよ。年齢なんて関係ないだろ」
「あんたは今、のぼせ上がってるからそんなふうに思ってるだけよ。長く一緒にいて、絶対に後悔しないって言い切れる? 結婚っていうのはね、そういうもんじゃないの。落ち着いて考え直してみなさいよ」
「母さんに俺の何が分かるんだよ」
憲也は強い口調で美也子に反論する。美也子はいらついたような顔になり、その矛先は当然のように茉莉へと向けられた。
「だいたいね、その髪色はなんなの? いい年してそんな髪色、恥ずかしいと思わないの? そんな頭で私の近所をうろつかないでほしいわ。非常識にもほどがあるでしょう。まったく、お父さんが見たら、なんて言うか」
「……すみません」
「母さん、別に見た目なんてどうでもいいだろ。とにかく俺たちの結婚を認めてくれよ」
「嫌よ。こんな女との結婚を認めちゃったら、天国のお父さんに顔向けができないじゃない」
憲也がどれだけ言葉を尽くして説得を試みても、美也子が認めることはなかった。