ムギとの出会い
事態が変わったのは、俊介がいなくなってから3日後のことだった。2人でテレビを見ていると、保健所に保護された犬や猫が特集で取り上げられていた。
年間5万匹以上の犬や猫が保健所に引き取られ、1万匹以上が殺処分されているのだという。気になって調べてみると、春子の住んでいる街にも保健所があることが分かった。
息子の俊介が小さいころにぜんそく持ちだったこともあって、犬や猫を飼う機会はなかったが、春子は若いころ、トリマ―になろうかと考えたことがあるくらい犬が好きだった。
春子は利也に相談し、すぐに保健所に赴いた。そこで出会ったのがムギだった。きれいな小麦色の毛並み、短い足、ぱっちりとした目、精悍(せいかん)な顔つきをしたミックスのコーギー。
「ちょっと、俊介に似ているな……」
ぼそりとつぶやいた利也の言葉が決め手となって、春子たちはその子を引き取ることにした。
こうして始まったムギとの生活は慣れないことだらけで大変でもあったが、それ以上の充実感といとおしさを、春子は日々感じていた。