そっけない夫
それから春を迎え、新生活がスタートする。
新しい家族の「ココア」と過ごす生活は、思ったよりも快適で楽しかった。
里歩は幸せな気持ちで生活をしていたのだが、陽太郎は違った。
「おかえり。ご飯、作ってあるよ」
「ああ」
前はもう少し笑顔で返事をしてくれていたのに、今は玄関に出迎えに行っても、こんな風に素っ気ない返しが来るだけ。食事中も陽太郎は不機嫌なのか疲れているのか、暗い顔でただ機械的に料理を口へ運んでいる。
「それでね、ココアにね、お座りを教えようとするんだけど、全然ダメなの。なんかあぐらみたいな座り方しかしないんだよね。あの子、自分のことを人間だと思ってるのかも」
「……そう」
家で一人っきりの里歩としては、陽太郎が唯一の話し相手なのだが、ここ最近はまともに相手をしてくれない。通勤時間が長くなって疲れているのだと里歩は理解していた。だから怒る気持ちは全くない。ただ寂しい思いはしっかりと感じていた。
会話に困っている里歩を見かねてか、ココアが近づいてきた。すると、陽太郎はご飯を残して立ち上がる。
「あれ、もう要らないの?」
「うん。飯食ってるときはさ、ちゃんとケージに入れといてよ。なんか臭いから」
「あ、う、うん、ごめんなさい」
そう言うと、リビングに向かいソファに寝転がった。
そのまま、陽太郎は就寝時間までずっと携帯を触っていて、会話にも応じてくれなかった。
里歩は小さくため息をつき、寂しさを紛らわせるようにココアとじゃれた。少しずつ夫婦間で溝が生まれていた。けれど里歩は、きっと陽太郎は疲れているだけだからと自分に言い聞かせていた。