東京から離れて3年がたった。
里歩は陽太郎とは東京で出会い、28歳のときに結婚をした。しばらくは東京で生活をしていたのだが、急な地方転勤が決まり、33歳のときから、この田舎で生活をしている。
1番近くのコンビニまでは車で10分くらい。最寄りのバスは30分に1本だけ。地下鉄なんてものはないし、唯一走っている私鉄の駅までは車で30分以上かかる。
都内に住んでいるときは感じなかった車の重要性が身に染みた。とはいえ、引っ越しを機に買った中古車は、陽太郎の出勤に必要だから平日は使うことができない。
里歩は孤独だった。
料理、洗濯、掃除を粛々とこなすだけの日々。東京にいれば日々の不満を話せる友人もいたし、遊べるところもたくさんあった。しかしこの町では、楽しめる娯楽はYoutubeとサブスクくらいのものだった。引っ越してきたときには新鮮に映った自然の風景は、もうとっくに色あせて、虫やにおいがうっとうしいだけになった。
陽太郎を見送った後、ベランダにシーツを干す。深呼吸をして、ネガティブな感情を吐き出す。
もう少しでこの景色ともお別れだと思えば、なんとか耐えられるような気がする。
里歩たちは4月に引っ越すことを決めていた。引っ越し先は、以前住んでいた都内の景色にこそ程遠いが、県内の都市部。支社近くの田舎に3年住んで、ここでは生活が不便だと陽太郎に引っ越しを懇願した結果、陽太郎が願いを聞き入れてくれたのだ。
職場が遠くなる陽太郎には申し訳ないが、それでも里歩の生活環境はガラッと変わることに胸が躍った。