地方に飛ばされた「本当の理由」
それからも仲直りのきっかけはつかめなかった。家にいても息が詰まると、次第に陽太郎は家にも寄りつかなくなり、里歩が1人で食事をすることが多くなった。
これじゃ一緒に暮らしている意味がない。里歩は自分が味わっていた孤独にまだ先があると知って、打ちのめされていた。
思わず涙をこぼした里歩の足元に、ココアが寄り添ってくる。里歩は笑って、頭をなでる。
「ごめんごめん、不安にさせちゃったね」
ひとりぼっちの夕食を終え、皿を洗う。スマホでぼんやりとYoutubeを眺めているとインターホンのチャイムが鳴った。
「こんな時間にお帰りですか…」
ため息をつきインターホンのモニターを確認する。
するとそこには同僚らしき男に肩を借りて、うつむいている陽太郎が映っていた。
ドアを急いで開けると、陽太郎がフラフラと入ってきた。
「すいません、鍵がどこにあるのか分からなくて」
「いえいえ、ありがとうございます! ずいぶん酔っ払ってますね……」
「そうなんですよ。ちょっと先輩、かなり飲んじゃって」
妻を待たせて、自分だけ楽しむとはいい身分だ。わずかに陽太郎を見る視線が厳しくなった。
「これ、車の鍵です。代行を頼んでおいたので。ちゃんと駐車場に止められてますよ」
「ありがとうございます」
そのまま後輩が帰ろうとすると、陽太郎がいきなり大声を出した。
「ちくしょー! 何で、何で俺が……!」
余りの声に里歩は驚いて固まった。ここまで酩酊(めいてい)している姿は見たことがなかった。
「俺は、悪くねーだろ! 何で、俺が、こんなところで……」
すると後輩は里歩に申し訳なさそうな目を向ける。
「あの、あんまり先輩をしからないであげてください。いろいろとたまっているんで」
「……職場で何かあったんですか?」
「いえ、うちの職場ではストレスになるようなことはないと思います。ただ、うちに左遷されたことがやっぱり…」
「さ、左遷?」
「いや、うわさなんですけどね。先輩、本社勤務の時に後輩だった人のミスを尻拭いしたせいで、うちに飛ばされちゃったんだって。もちろん先輩が言ってたんじゃないですよ。うわさです、うわさ」
「……え?」
「だから、まぁ、あんまり怒らないであげてください」
それだけ言い残して、後輩は帰っていった。
「ウソでしょ……?」
その瞬間、里歩はいろいろなものが崩れ落ちるような感覚に陥った。
しかし酔いつぶれている陽太郎を見ると、怒りは不思議と湧いてこなかった。
里歩はしっかりと陽太郎を支えて、寝室まで連れて行った。