男社会で女が出世するには無理が必要?
そんな日々に変化が見えたのは、5月のゴールデンウィーク明けだった。
疲れた体で家に帰ると、リビングから漂うみそ汁のいい香りが空腹を刺激する。匂いに誘われリビングに向かうと、キッチンで夫の弘幸が料理をしていた。
佳保たちの家では家事は当番制の分担だった。弘幸は不動産会社で働いている。
「お帰り。だいぶ、疲れてるね」
ぐったりとする佳保を見て、弘幸は苦笑いを浮かべる。
「ちょっとね、新入社員の子が辞めちゃうかもしれなくてね……」
「え? あの内気で職場になじめてないって言ってた子?」
「そうそう。最近は何かと理由をつけて休むようになっちゃって」
「ああ、なるほど。五月病ってやつか」
佳保は深いため息をついた。
自分たちの時代ならそんなことは許されなかっただろう。そんな古くさい言葉が頭のなかに思い浮かぶ。
男社会の会社のなかで、気合と根性を頼りにのし上がってきた佳保には、今の若い子たちはどうしても理解しがたいものがあった。
「一応ね、しっかりと話はしているのよ。でも、平気で休んだりするからさ……。何とかして仕事を楽しんでくれるようにしたいんだけど、どうしたらいいのか……」
愚痴をこぼす佳保を弘幸は少し心配そうに見ていた。
「その子も心配だけど、佳保も無理はしすぎるなよ。何でも適当っていうのがあるんだからな」
弘幸の言葉に佳保は返事をしなかった。
弘幸は気遣って言ってくれていると分かっていた。それでも、男社会で女が出世するのがどれほど大変か分かっていないのんきな発言にカチンときたのだ。
当たり前のことを当たり前に頑張っていても、男が出世するようになっている。そこで頭1つ抜きんでるのは、ある程度の無理が必要なのだ。