しがらみのない新興企業には夢しかない

スカウトメールが紹介してきた新しい職場は、新興企業だった。創業から5年目を迎えたばかりのオンラインゲーム会社で、2年前に出した新商品が爆発的なヒット商品になって急速に業績を伸ばしていた。その商品の名前は、吉住も知っていた。老舗の建設会社の設計士と新興のゲーム会社には何の接点もなかったが、吉住はプログラミングの資格をいくつか取得していた。そして、設計士としてプロジェクトリーダーを務めている吉住のポジションがゲーム制作管理にも生かせると評価されていた。吉住には、現在進行中の新作ゲームの制作チームのサブリーダーとして入社して経験を積み、次のステップとしてはゲーム制作チームのリーダーを任せたいというものだった。制作したゲームが一定水準以上の売り上げになれば、担当したチーム全体に成功報酬が支払われ、当然ながらリーダーへの配分率は大きくなる。2年前のヒット商品の場合、リーダーが受け取った成功報酬は1億円近かったという。

吉住は、成功報酬の魅力もさることながら、しがらみのない組織で思いっきり自分の力を尽くしてみたいという気持ちが強かった。常に目上の者から監視され、実力を試されているような職場に息苦しさを感じていたのだ。もちろん、家庭を持つ身である。妻も子もあり、子どもが成人するまではしっかりと給与を得ていかなければならない。住宅ローンも20年以上残っている。現在の安定したポジションを捨ててまで移っても良い先であるのかどうか、その点は面談でしっかり見極めるつもりだった。何事も面談を経て決めるとは思っていたが、吉住の気持ちの中では転職へと大きく心は傾いていた。その面談の日が近づいていた……。

吉住の転職活動の結果は成功に終わるのだろうか? 後編「60歳で定年退職」の先輩から聞いた“成功と後悔”企業型DC運用のコツって?にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。