噂をすれば

千帆にとっては昼休みだけが気を緩めて息をつける時間になっていた。いつものように声を掛けてくれた同僚の典子と一緒に社員食堂へ向かう。典子はコブサラダ、千帆は焼き魚定食の食券を買い、あいている席に腰を下ろす。

2人の話題になるのは、もちろん花林のことだ。

「千帆さん、やばくないですか? 増田さん」

「うん、ちょっとね……別に仕事ができないわけじゃないんだけど」

「いやいや、周りとちゃんとコミュニケーション取りながら仕事するのだって立派な能力ですからね。人事部、見る目なさすぎますよ」

典子の同意に気が緩み、千帆は深い深いため息を吐く。典子がこうして千帆の愚痴を聞き、代わりに怒ってくれるからこそ、千帆は花林の指導をなんとか続けていられるのだと真面目に思う。

典子は30歳になったばかりで、若手と千帆のようなベテラン、どちらとも接することのできる貴重な存在。だからこそ、多くの社員が典子と仲良いし、典子を中心に会話の輪が広がることが多い。

「はぁ~典子ちゃん、ほんとに癒やしだよ~」

「任せてくださいよ。千帆さんのことならいつでも癒やしますよ~」

大根おろしにしょうゆをかけながら言う千帆に、典子がほほ笑みかける。しかし2人の気心知れた憩いの時間は、降りかかった一言であっけなく終わりを告げた。

「一緒にいいですか?」

どうぞ、とこちらが答えるまでもなく、花林が席に腰を下ろす。千帆たちが気まずく思っていることを気にするようなそぶりなどみじんもない。