「こちら、今日からウチに入社することになった増田花林さんだ」
毎朝のルーティーンである朝礼で、部長からの紹介を受けた若く快活そうな女性社員が深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
ぱらぱらと拍手が鳴り、千帆も周囲に倣った。
「柳沢千帆さん、指導係としていろいろ教えてあげて」
朝礼終わりに、部長から声を掛けられた。千帆は中堅不動産会社で営業事務として働き出してから15年目を迎えるベテラン社員。新入社員、中途採用を問わず、指導係になったことは一度や二度ではない。
「初めまして、柳沢です」
「増田です」
千帆が自己紹介をすると、花林は笑顔で会釈をした。その勝ち気な表情に、ほんの少しの苦手意識と嫌な予感を感じたけれど、もうこのときの千帆にそのことをどうにかすることなんてできやしなかった。
「ああ言えばこう言う」新人
そのときの嫌な予感がかたちになるまでに、1週間と時間はいらなかった。
もちろん、前職でも営業事務を経験したことがある花林は仕事ができないわけではない。むしろ入力ミスなども少なく、かつ正確で、どちらかと言えば優秀と言ってもいいのかもしれない。
けれどそれを差し引いてもあまりある問題が、千帆の頭を悩ませていた。
「増田さん、物件や顧客情報の資料を整理してファイリングしてってお願いしてたのやってなかったみたいだけど…… 。 他の子がやってくれてたけど、私は増田さんにお願いしたよね?」
千帆が注意をすると、花林は小さくため息を吐いた。
「いや、柳沢さん、今どき紙の資料なんてまとめて何になるんですか? 全部電子化してPC管理が当たり前ですよ? ペーパーレスって知ってます?」
「それは、もちろん分かるけど、そんないきなり電子化できるわけじゃないから……」
「ほんと、遅れてますよね。頭を使って仕事をしてないから、こういうことに気付かないんですよ。私はそんな非効率で意味のない仕事したくないです」
「そんなこと言われても、増田さんがやってくれないとみんなが困るのよ……」
千帆が何を言っても、花林はあーだこーだと言って反論する。とにかく花林は我が強く、千帆は手を焼いていた。