シニア入試への挑戦
誰のために作っているのか分からない料理を食べ終え、道代はテレビをボーッと眺めていた。テレビはニュースを映していた。道代よりも上の世代の芸能人が大学入試に挑戦するという内容だった。
道代は思わず、テレビにくぎ付けになる。かつて、道代も大学進学を夢見ていた頃があった。
道代の周りにもちらほらと大学進学をする同級生はいたが、それでも一部の選ばれし人しか行けないという印象があった。
道代も意を決して父に大学進学を申し出たことはあったが、平凡な農家の娘の願いはあっさり一蹴された。決して夫は悪い人ではなかったし、幸せじゃなかったとは言わない。
それでも大学に行かなかったことを後悔していないかと言われればうそになる。
ニュースの締めくくりには現在、定年後に大学進学をする人たちが増えているという話をしていた。
自分と同じような人が大学にたくさんいるんだ。と、この言葉が道代の気持ちをさらに後押しした。
それから道代は不慣れながらネットを駆使して、大学に関して情報を集める。すると、道代が住む県内にシニア入試を行っている大学があった。
シニア入試とは60歳以上の人たちを対象にしている試験で、高校までの勉強を再度やることが難しい人たち向けのものだった。
勉強自体は嫌いではなかったが、中学、高校向けの勉強など40年以上やっていない。加えて、授業内容も全く違うので、今からその勉強をするのは難しいと思っていた。
シニア入試の内容は小論文と面接。それと基本的な学力などを確かめるだけなので、これならできるかもと思い、道代はさっそく大学進学に向けての勉強を始めた。
道代は久美子にも大学進学を目指すことを報告する。
「えっ⁉ 大学に今から行くの⁉」
「そうよ。昔から夢だったから」
「学費ってどれ位かかかるの?」
「入学金で28万円、授業料が年間で53万円よ」
久美子は空で何かを計算している。
「そうか。お父さんが残したお金とかを使えば、それくらいなら大丈夫か」
「ええ。年金がなくても暮らして行けるようにって、お父さんはしっかりと貯金をしてくれていたから」
「ふーん、そうなんだ。頑張ってね」
「うん、ありがとう」
道代は大学受験という挑戦に胸を躍らせた。