青汁を飲めなくなった義父

宗一が当てにならないことはもう分かっていた。逆に言うと、温かく見守っているということで、数子を変に刺激するということはない。

だからこそ、蓮美は動きやすいと思っていた。

まず最初に蓮美がやったことは数子の青汁を外部へ持ち出すのを防ぐこと。絶対に数子を加害者にしてはいけないと思った。

「お義母(かあ)さん、すいません」

「あら、どうしたの?」

「ちょっと、体調が優れなくて、その青汁、いただいてもいいですか?」

蓮美がそう言うと、数子はとてもうれしそうにほほ笑んだ。

「もちろんよ。好きなだけ飲んで」

そこから数子はうれしそうに飲み方などを丁寧に教えてくれた。

まずは家の中でできるだけ消費をする。そうすることで味方でいながら、外に出さないようにすることができる。

そうやって何とか蓮美は数子の状況が悪化することを防いでいた。しかしあくまで水際対策でしかなく、状況は何も変わらない。

とはいえ、何もすることができず、半年という時間が過ぎていった。

その日も数子は青汁を寝ている宗義のところに持って行く。蓮美もその様子に何も感じなくなっていた。

しかしそんな寝室からヒステリックに叫ぶ数子の声が聞こえてきた。

「あなた、あなた!」

蓮美と宗一は急いで寝室に向かう。

すると数子が無理やり宗義の口にコップを近づけ、青汁を飲ませようとしている。しかし青汁は宗義の口には入らず、顔から床に垂れていた。

「バカ! 何やってんだ⁉」

宗一は無理やり数子と引き剝がす。

「あなた!お願い、飲んでよ!」

蓮美はすぐに口元を拭おうとした。

「あ……」

しかしその手が止まる。

義父の体は、冷たかったのだ。

蓮美は宗義の顔を見る。穏やかに寝ているようなのに、その瞳が開くことはもうないとその瞬間に悟った。

宗一もそのことを理解し、すぐにかかりつけ医に連絡をする。

そしてまだ青汁を飲ませようとする数子の手を蓮美は止めた。

「お義母(かあ)さん、もうお義父(とう)さんを休ませてあげましょう」

蓮美がそう言った瞬間に数子はその場に崩れ落ちてしまった。