室内のすべてのものが撤去される
その後は待機していた作業員に指示を出し、すぐに残置物の撤去を始めました。
部屋のものをビニール袋に入れてひたすら共有廊下に運び出すのですが、ゴキブリやネズミの死骸が出てきた時には必死に吐き気を押し殺しました。途中、本棚にあった山下さんの両親の遺影を見た時には胸を痛めずにはいられませんでした。
1時間ほどして、ようやく真珠のネックレスが見つかります。念のため確認すると、山下さんは「間違いありません。本当に、本当に、ありがとうございます……」と言い、大事そうに両手で包み込みました。
そうして山下さんは部屋のカギを私に手渡すと、スーツケースとリュックサックを持ち、マンションを立ち去っていきました。作業時間にしておよそ2時間。マンション横の公道に横付けしたトラックに次々とごみが搬入され、断行は終了となりました。
仕事とはいえ、私も複雑な思いが消えるものではありません。別のことをしていても、ふと「山下さんはどうしているだろうか」という考えがよぎることがあります。
通常、家を失った債務者は、友人などを頼って家に滞在させてもらうケースが大半です。山下さんも周囲を頼り、そこで生活を立て直せると良いのですが……。
少しでも助けになればと、私も区役所の福祉課の担当者に連絡し、山下さんに何かあった時には対応してもらうようお願いしました。しかし、現実的に言えば高齢者でもなく、本人からの申請もない状況。区の方からの支援を期待することは厳しいのが現状です。
山下さんの事例は、都会の中の「孤独と孤立」を痛いほど感じた事例でした。彼女が家を失う前に何かできることはなかったのか。今も思い出しては自問自答を繰り返す日々が続いています。
※プライバシー保護のため、内容を一部脚色しています。