忍び寄る不穏な足音

バックカントリーのどこを見渡しても人の姿がない。

広い空、大きな山、どこまでも広がる美しい雪原が見えるばかりだ。雪がすべてを真っ白に染め上げているせいで、雪原と山との境目が曖昧になっていた。

小島は、真っ白な空間にひとり取り残されていた。なんだか現実離れしていて、夢でも見ているような気分だった。あまりにも雄大な自然のなかに足を踏み入れ、その迫力に圧倒されていた。

雪の上を見ても、誰かが滑った跡が見当たらない。きっと、今日このバックカントリーに入ったのは小島だけだろう。

『最高だな』

これこそスキーの醍醐味(だいごみ)だ。小島は学生時代を思い出しながら広いバックカントリーを満喫していた。スキー用に整備されてはいないものの雪質は良く、ストレスを感じずに存分にスキーを楽しめる。

小島が滑っている間に、空から降る雪の量はどんどん増えていった。

そして、雪の量に比例するかのように風も強くなっていた。しかし、スキーに夢中になっている小島がそれに気づくことはなかった。

●小島は無事にバックカントリーから戻ってこれるのか。そして三上は……?  後編【「生きて帰れないかもしれない」下心が招いた雪山での遭難。“過信しすぎた”男の末路と救助費用は…にて、詳細をお届けします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。