<前編のあらすじ>
近藤慎之介(40歳)は大学を卒業してから同じIT企業に勤め、40歳にして営業課長にまでなったが、他社からヘッドハンティングでやってきた部長とソリが合わず大げんかの末に退職してしまう。故郷へ戻った近藤は、ショッピングモールでかつての同級生、辻と再会する。妻子連れで仕事も順調そうな辻に対して近藤は「会社を辞めた」と言えなかった……。
●前編:パワハラ上司と大げんかの末に退職…故郷へ戻った元エリート会社員の“田舎ならでは”の苦悩
突然倒れた父
辻と別れた近藤は駐車場に止めてある車に戻り、しばし考え込んだ。
「そういえば、近藤はどうしてるの?」と聞かれ、思わずうそをついてしまった。
なんだか、自分がひどく薄っぺらい人間のように感じた。
昔から「人にどう見られるか」を強く意識してきた。それがモチベーションにつながり、勉強や仕事を頑張れたという面もある。
「勉強ができる近藤」や「仕事ができる近藤」として見られたいと強く思っていた。
しかし、仕事を辞めてみると、そこに残るのはかつての同級生に見えを張ってうそをつく40歳無職男性だ。
『いったい、俺は今までなにをしてきたんだ』
家族連れでにぎわうショッピングモールの駐車場の中で、近藤はひどく落ち込んでしまった。
そろそろ実家でのんびりするのにも飽きた。いつまでも地元にいては、またかつての同級生に再会しないとも限らない。
近いうちに東京に戻ろうと考えた矢先のことだった。
父親が倒れた。
ちょうど近藤が暇つぶしのために本屋に行っているときだった。母親がすぐに救急車を呼んだので、命は助かった。
脳出血だった。
命こそ助かったものの、父親の身体には後遺症が残ってしまった。身体の左半分がまひしてしまい、リハビリをする必要があった。リハビリを通じて身体が回復するまでは車いすだ。
父親がそんな状態になってしまったものだから、東京に帰るどころではなくなった。母親は「気にせずに東京に戻ればいい」と言ってくれたが、そんなことができるわけがなかった。
近藤は実家にとどまり、母親とともに父親の介護をすることになった。