柔和になった父
脳出血で倒れてから、父親はかなり変わった。
近藤に説教するようなこともなくなり、頻繁に「ありがとう」と口にするようになった。ずっと家にいる近藤に対して嫌な顔をすることもなくなった。
「お父さん、ずいぶん変わったね」
母親も驚いていた。
脳出血をきっかけに、父親から妙な固定観念やプライドが抜け落ちたようだった。
近藤は少しモヤモヤした感情を抱えていたが、それが吹き飛ぶようなことがあった。
「むかし、お前を殴って悪かったな」
食事の介助をしているとき、不意に父親がそう言ったのだった。
「むかしのことでしょ。気にしてないよ」
そうは言ったものの、近藤の心の中では大きな氷が溶けていった。
やっと父親と和解できたような気がした。
介護タクシーとの出会い
父親の介護をしていて不便に感じることがあった。
それは、介護タクシーだ。
自家用車で病院まで連れていくこともできるのだが、父親は比較的大柄で体重もあるので、車いすから自家用車に移動させるときに介助している側(がわ)が腰を痛めてしまう恐れがあった。
父親をリハビリのために病院に連れていく必要があるのだが、それには車いすに乗ったまま乗車できる介護タクシーという特別なタクシーを使う。
その介護タクシーを希望の時間帯に配車予約できないことが多いのだ。
調べてみると、どうやらこの地域では介護タクシーが不足しているらしい。
普通自動車二種免許や介護職員初任者研修といった資格が必要で、参入ハードルが決して低くないことが要因のようだ。
最初は希望の時間帯に配車予約できないことに腹が立つばかりだったが、しばらくすると考えが変わってきた。
これは、もしかしたら運命ではないのか。
会社を辞め、故郷に帰り、病に倒れた父親と和解した。
そして、介護タクシーの不足という問題に直面している。
自分で介護タクシーの会社を興してみてはどうだろう。