<前編のあらすじ>
田中勇司(48歳は)は、会社の早期退職者支援制度で得た退職金を利用し、妻の皐月(44歳)とともに念願だったそば屋を開業した。競合店が無かったこともあり、開店から1年たっても店は順調だった。そんな折、駅前に大型商業施設が建設されるとの情報が入り、近隣の商業団体と一緒に反対運動を行うが、結局大型商業施設の建設は決定となってしまった。

●前編:退職支援金で「脱サラ起業」した男を待っていた落とし穴… 会社を辞める前に見直したいリスクとは

地元の商店街は開店休業状態に

それから2年後、商店街は散々な状況だった。

建設決定から1年後に、大型商業施設が開業。そしてあっという間に商店街に来ていたお客はそちらのほうに流れていった。

今までのつながりや交流なんてまるで、何もなかったかのように。

そして商店街に人が来なければ、店も閑古鳥が鳴いている。

毎日のようにそばを打つが、誰も食べないので、廃棄する日々が続く。

最盛期には朝早くに店に来て、仕込みをやっていた。しかし今はそれをする必要がない。

お客の数は多い日で5〜6人。誰も来ない日だって珍しくない。

そして1番の問題はそれらを改善する手だてがないということだった。

ホームページを作り、新メニュー開発を宣伝したり、YouTubeで動画を配信してみたりといろいろやった。

しかし何をやっても見てくれる人がいなければ、意味がないのだ。

「オモチャ屋の吉住さんがね、もう店を畳むって言ってる。これでもう今月だけで3軒目だよ」

長田さんはそば屋に来てはそんな風に愚痴をこぼすようになった。

長田さんが代々続く理容室を営んでいたが、そこにもお客さんは来ていない。

大型商業施設の中に格安でカットをするチェーン店が入ったからだ。

素早く安く切ってくれる店が目と鼻の先にあるのだから、仕方ない。

そんな長田さんの店の利用客は勇司も含めほぼほぼ商店街の人間しかいないのだ。

今日のように勇司たち自身が商店街の店を利用することで、少しでも売り上げに貢献しようとしている。

そんな策とも呼べないような苦肉の策を講じないといけないのがこの商店街の現状なのだ。