<前編のあらすじ>

今年で50歳になる看護師長の詩織は、夫の父が亡くなったことをきっかけに、義母・和子と同居をすることになった。80歳近い和子はいわゆる「昭和の専業主婦」で、毎食一汁一菜、妻は家にいるべき、など、詩織とはもともと価値観が合わなかった。さっそく同居生活が始まった日に、手をかけて作った夕飯に文句をつけられてしまった詩織だが……。

●前編:作った料理を「こんなもの」と言い放つ義母… 看護師の妻が感じた義母世代との“ギャップ”とは

「子なし」を選択した結果、こじれた関係

和子との関係がこじれた原因の1つは、詩織が妊娠できなかったことにある。

茂と詩織のどちらに問題があったのかは分からない。だが2人には子供ができなかった。詩織たちは何度も話し合いを重ね、その事実で自分たちが傷つかないよう、2人で十分に幸せだと納得させて生きることを選んだ。

だがそのことが和子は気に入らなかったらしい。詩織に対する態度はだんだんととげとげしいものになり、面と向かって嫌みや罵倒をぶつけられるようになった。

一緒に暮らすのだから、お互いに少しでもストレスなく過ごせればと思った。これまでの生活を大きく変えることはできなくても、歩み寄ることはしようと思った。けれど関係は良くなるどころか、詩織にかかるストレスは増えるばかりだ。

夜勤が終わって家に帰れば、すでに和子は起きてリビングでお茶を飲んでいる。

「おはようございます、お義母(かあ)さん」

「朝帰りかい。いい御身分だね」

「夜勤です」

目を合わせることすらしない。シャワーを浴びようかとも思っていたが、帰宅早々に和子の顔を見たせいで疲労感は何倍にも増している。

「私、一度このまま寝るので、茂さんのことお願いしますね。トーストくらいはあの人も焼けるので」

「はっ、旦那はほったらかして居眠りとは、随分とえらくなったもんだね」

和子は吐き捨てた。じゃあ妻をほったらかして寝ている旦那はどうなんだと言いたくもなったが、詩織はそれ以上取り合わなかった。化粧だけ落とし、寝室に向かう。夜勤などで生活時間帯がずれる夫婦の寝室はもう何年も前から別々にしてある。

詩織はベッドに倒れ込む。すぐに睡魔がやってきて、詩織の意識をまどろみのなかへと引きずり込んでいく。