二馬力の強み

詩織による適切な救命措置とAEDが相まって、茂は一命を取り留めた。左腕にややまひが残ってしまい、リハビリが必要にはなるが、日常生活を送る分にはひとまず問題ないと担当医が教えてくれた。

療養とリハビリのために茂はしばらくの間休職することになった。50代半ばでの休職が残りのキャリアにどんな影響を与えるかは分からない。けれど茂の仕事がどうなろうと大丈夫だ。もちろん持ち家のローンはまだ若干残っているけれど、ひとまずは詩織の稼ぎがあれば、3人で暮らしていくことには困らない。

それにあの夜以来、和子はおとなしくなった。おそらく彼女なりに、詩織の看護師としての仕事の意味を感じ取ったのだろう。腹立たしい小言がなくなったことでまたぐっすり眠れるようになったし、今は和子も料理や掃除などをやってくれている。

「お義母(かあ)さん、今日は私、夜勤なので。14時くらいまでちょっと眠りますね。茂さんのお見舞い、お願いしてもいいですか?」

うなずく和子を確認して、詩織は寝室へと向かう。扉を開けたところで和子が詩織を呼び止めた。

「あの、ありがとうね。……茂のことも、この家のことも。詩織さんが看護師で、その、助けられました」

「いえ、当然です。家族なので」

詩織は和子に向かって言って、寝室へと下がった。

ベッドに横になる。昨日干したばかりの布団はまだ少し、太陽のにおいがして心地が良い。眠れる気がしなかった。夜勤だというのに困った。最近は年のせいか、昼間ちゃんと寝ておかないと途中で眠くなってしまうのに。

頭で思っていることとは裏腹に、詩織の胸はどうしようもなく高鳴っていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。