<前編のあらすじ>

元キャビンアテンダントの瀧口咲は、タワーマンションという特別な環境にふさわしい存在であるべく、娘の幼稚園受験の準備に奔走していた。

●前編:【タワマンの「特別感」に心酔した元CA女性…ママ友についた“最初の嘘”】


 

夏の終わり、愛梨ちゃんママから突然引っ越しをすると告げられた。意外だった。愛梨ちゃんパパは高層階の部屋のオーナーだからだ。

開業医をしている愛梨ちゃんパパのお父様の体調がすぐれないので、同居してクリニックでの診療をサポートするらしい。マンションの部屋を手放すわけではなく、「とりあえず賃貸に出して、いずれは戻ってくるつもり」という。

愛梨ちゃんも幼稚園受験の準備をしていたが、急遽、引っ越し先の公立に通うことになった。

「愛梨ちゃんと会えなくなって寂しいね」

キッズルームで葵ちゃんママに話を振ると、葵ちゃんママは意味ありげな笑いを浮かべ、こんな話をした。

「愛梨ちゃんのおうち、借金を抱えて火の車だったんですって。なのに愛梨ちゃんママときたら、ド派手なネイルをしてブランド三昧でしょ。大丈夫かしらと思ってた。お部屋、オーバーローンで売るに売れないみたいよ。夜逃げみたいなものだから、もうここには戻ってこられないんじゃないの」

※過去記事:【「軽い気持ちで…」巨額の負債を抱えた外科医を追い詰めた“後妻の秘密”】

葵ちゃんママは幼児教室が一緒の地権者ママと親しく、そこから情報を仕入れてきたようだ。手のひらを返したような辛辣で冷酷な物言いに、葵ちゃんママの別の顔を見たような気がして怖くなった。