今日も一日雨模様だ。眼下の景色は灰色の霧に覆われている。これでは娘の莉子たちを近所の公園に連れて行けない。
つけっ放しにしていた4Kテレビで、10時のニュースが始まった。スマートフォンを取り上げ、「11時にキッズルーム集合で」とグループLINEに打ち込む。ほとんど間を置かず、葵ちゃんママと愛梨ちゃんママから「OK」の絵文字が返ってきた。
こんな日はマンションに付設されたキッズルームが便利だ。50畳を超える広いスペースに滑り台やブランコなどの遊具が置いてあり、子供向けの絵本もいろいろ揃っている。
「莉子、葵ちゃんと愛梨ちゃんと滑り台のお部屋で遊ぼうよ。お着替えしないと」
「やだ。行きたくない」
2歳半になる莉子が大きくかぶりを振る。莉子は昨日の幼児教室からずっと機嫌が悪い。週に2回ほど有名幼稚園受験に向けたカリキュラムを受講しているが、不器用な莉子は他のお友達のように上手に積み木を積んだり、手遊び歌を歌ったりすることができない。
負けず嫌いの莉子にはそれが我慢ならないらしく、時々癇癪を起こす。同じ2歳児クラスの子供に比べると小柄で華奢な莉子だが、そうなるともう手がつけられない。先生たちがいくらなだめすかしても激しく泣き喚き地団駄を踏む莉子を他のお友達が怖々と遠巻きに見ているという地獄絵図が何度繰り広げられたことか。
「親の心子知らず」とはよく言ったものだと思う。莉子の人生にはなるべく多くの選択肢を用意してやりたくて、出産前から学校や教育資金についてのリサーチを始めた。金融機関に勤務する幼なじみから「もう学資保険の時代じゃない」と言われ、莉子が進学する年に償還される米国債を購入したり、NISA(少額投資非課税制度)で全世界株式型の投資信託をコツコツ買い増したりしてきた。