姉の嘘

リフォームが終わり、母親が「家賃はいくらで貸すのか?」とたずねると、姉は「5万円」と答えた。その後も母親は姉に会う度、「借り手は見つかったか?」と聞くが、姉は「なかなか決まらない」と言い、姉の夫も「草引きや植木の世話が大変」と口をそろえた。

家賃の5〜4割が入ってくるのを楽しみにしていた母親は、その度に肩を落とした。

ところが一昨年のこと。烏丸さんが何気なくGoogleのストリートビューを見ていると、烏丸さん一家が住んでいた家の玄関に「〇〇学習塾」と書かれた旗が立っている。びっくりした烏丸さんが住所で検索すると、「〇〇学習塾」と出て来た。逆に「〇〇学習塾」で検索すると、家の住所が出て来た。ストリートビューは、2020年の情報だった。

慌てて姉が依頼していた不動産会社のサイトを見ると、烏丸さん一家の家の家賃は「6万円」で「賃貸中」となっている。つまり、2020年にはすでに借り手が決まっていたということだ。

つい先日も姉は相変わらず、「借り手が決まらない」と言っていた。烏丸さんは思わず「おい!」と突っ込みたくなったが耐えた。母親と姉をもめさせたくなかったからだ。

「できれば私が指摘する前に、姉の口から母に話してほしいと思っています。過去にさかのぼらなくても、『やっと決まったんよ』と言って、来月からでもいいので母に家賃を払ってやってほしいと思います」

現在88歳の母親は、昨年から認知症の症状が出始めていて、軽い妄想も徘徊もある。烏丸さんは平日の仕事の後や土日に母親の様子を見に行っているが、車で20分ほどのところに住んでいる姉は、ほとんど何もしていない。

「何でもするけん、いつでも言ってね」「1人で抱えたらいかんよ」とは言ってくれるが、いざ頼むと「忙しい」「その日は無理」と言って10回中9回は断られる。

母親は要介護1。週に1回のデイサービスと、週に2回のヘルパーを依頼しているが、母親の経済的にはこれがギリギリだった。

「姉が、月々2万円でも3万円でも母に渡してくれたら、母の経済的負担は軽くなります。1000円、2000円の買い物をためらわなくても済むようになります。デイサービスやヘルパーを増やすことも、経済的に問題なくなります……。しかし姉の性分を考えると、ここまでごまかしてきたのなら、今後も自主的に話すとは思えません。ストリートビューの写真だけだと、『すぐ出て行かれて、今はまた空き家なんよ』と言って逃げられそうなので、近日中に家を確かめに行こうと思っています」

烏丸さんは現在も、「姉に、『母が経済的な不安を抱えている』と相談してみようか……」「母は、姉と私がけんかをするとものすごく悲しむから、姉と2人きりで話そうか……」と悩んでいる。

残念なことに、父親の死後、母子3人で相続について話し合った記録はない。単なる口約束で、書面も録音もない。

「あの時は、姉がこんな嘘をつくとは思いませんでした。もう信用できません。問い詰めれば、『そんな約束していない』と姉はシラを切るかもしれません。でも母のためにも、なんとかしたい。金銭的な心配を、少しでも軽くしてあげたいと思っています」

信頼していた身内の裏切りは大きな傷を残す。烏丸さんは、今度家族で話し合う時はすべて録音しておこうと思っている。