遺産分割は話し合いで決めることに

母は常々「私は100歳まで生きるわよ」と言っていたこともあり、死後の遺産分割について遺言らしきものは一切残していませんでした。

祖父母の代からお世話になっている税理士さんに頼んで遺産を調べたところ、都内の住宅地にある敷地面積100坪の実家と、有価証券や預貯金などの金融資産が2500万円ほどあることが分かりました。

相続人は私と5歳年下の弟の慎也です。弟夫婦は母と仲が良く、存命中は子供を連れて足しげく実家に通っていたので、てっきり実家を相続したいと主張してくるかと思っていたら、「不動産は兄貴に譲るよ。俺はお金をちょっともらえればいいや」と言います。

それは私にとっても好都合でした。母が丹精込めたイングリッシュガーデンがあり、煉瓦を使うなどこだわった洋館風建築の実家には人一倍愛着があったからです。

また、転勤族で社宅暮らしが長かった私には、マイホームを買うことはあまり頭にありませんでした。ですから、定年が近くなって東京の本社に腰を落ち着けたら、実家に住むのも悪くないと考えていたのです。

万一住めなくなっても、実家があるのは都内の人気エリアです。いくらでも買い手がつくだろうという思いもありました。今となってはこれがあまりに楽観的すぎる考えだったのですが……。