目を奪われるほどの美しいフォーム…打ちっぱなしで運命が動き始める

電話を切った後もモヤモヤした気分は収まらなくて、近所のゴルフ練習場に向かいました。ゴルフは日本企業に勤めていたころの上司に勧められて始めたけれど、もう何年もクラブを持っていませんでした。でも別に誰に見せるわけでもないし、打ちっぱなしに行けばスカッとできるような気がしたんです。

モヤモヤをぶつけるようにバンバン打っていたところ、隣の打席の男性に目が留まりました。とにかくフォームが美しくて、きれいなアーチを描いてボールが飛んでいきます。こんな上手な人を間近で見るのは初めて、と思い目が離せなくなってしまいました。

すると、私の視線に気が付いたその男性が手を止めて、不思議そうな顔で私を見てきました。私はハッと我に返りました。

「ごめんなさい! フォームがとてもきれいなので、つい見入っちゃって……」

慌てる私に、男性は「気にしないで」とでも言うようにニッコリうなずいて、また打ち始めました。よかった、嫌な顔されなくて……と、私はホッとしながらも、その後はなんだか集中できなくて、早々に切り上げて帰ることにしました。

それからというもの、その日と同じ月曜夜にゴルフ練習場に行くようになりました。彼は決まって月曜の同じ時間に来ていることが分かったからです。仲良くなりたいなんて大それたことは思っていなけれど、彼の姿を見られれば“眼福”、気づかれないように注意しながらチラチラ目で追っていました。そうした日々を何週間か過ごしていると、いつも顔を合わせるので、向こうも私に気づくと会釈してくれて、私はそれだけで舞い上がっていました。

ある日、ベンチで休憩していると、なんと彼がやってきました。自販機にコインを入れながら、「いつも月曜日にいらっしゃるんですね」と声をかけてくれました。私はドキドキする気持ちを抑えて、冷静を装いながら答えました。

「そうなんです、週の初めに気合を入れようかな、なんて……」

「そうですか。僕は火曜日が休みなので、疲れても大丈夫な月曜夜に通っているんですよ」

「何のお仕事をなさっているんですか?」

「IFAという仕事です。資産運用のアドバイスをしてるんですよ」

「えっ、資産運用のアドバイス? 投資にお詳しいんですか? 」

私はつい、身を乗り出してしまいました。あの失礼な証券会社の営業マンと、全然利益が出ないまま放置している投資信託を思い出してしまったんです。

「何かお困りのことでもあるんですか? よかったら相談に乗りますよ」

いいのかな? と思いながらも、幸い周りには誰もいなかったので、私は経緯を簡単に話しました。あこがれの男性と話せていること、しかも悩みを聞いてもらえていることが信じられなくて、しどろもどろだったけれど。

 一通り話を聞くと、彼は言いました。

「分かります、そういうケースは本当に多いんですよ。残念ですが証券会社の営業担当には販売ノルマがあるので、どうしても目先の目標達成が優先されてしまうんです」

「そんな。じゃあやっぱり、私はカモにされているだけなんでしょうか?」

「そもそも、投資信託はそんなに頻繁に売ったり買ったりするものではないんです。本来は長期で保有するものなんですが、そうなると証券会社には販売手数料が入らないから、回転売買を勧めざるを得ないこともあります。それに証券マンは異動が多いので不安を感じてしまうこともあるでしょうね」

「そうなんです、あっという間に交代してしまって。私、どうしたらいいんでしょう?」

この会話をきっかけに奇跡とも言える出来事が続く! 荒木さんを待ち受けている意外な結末は…? 後編へ続く>>

​※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。