夢のような高利回り! トルコリラ建債券との出合い

最初は会計が気になってオーダーは控えめにしていましたが、彼女はねだるどころか「無理しないでね、私は村上さんが来てくれるだけでうれしいから」と健気な言葉をかけてくれます。そんなことを言われたら、これ以上こちらの懐事情を心配させるわけにはいきません。私は昼メシを我慢したり、ひそかに貯めていたヘソクリで対応して高い酒も頼むようになりましたが、あっという間に使い果たしてしまいました。

そうだった、教育費がかからなくなる分で老後に向け資産運用を始めようと思っていたはずなのに……。ハルカに夢中になって何もできていないばかりか、種銭まで減らしていることにようやく気が付きました。まずいな、と焦り始めたときに目についたのが、高金利通貨で運用する債券のバナー広告でした。

見ると「トルコリラ建債券(ゼロクーポン債)」とあり、利回りはなんと10%超! これまでの資産運用と言えば定期預金オンリーで、投資も若い頃の持株会ぐらいしか経験のない私には、見たことのない夢みたいな数字です。早速この証券会社に連絡すると、営業担当だという男性が折り返しの電話をくれました。

その営業マンは、この商品がトルコの「リラ」という通貨の債券であること、10年後に投資した金額が約2.7倍ほどになって償還されるということ、ただし為替相場は変動するので、日本円に戻した場合に必ず2.7倍になるわけではなく、損失が出る可能性もあることなどを説明してくれました。

確かに為替変動のリスクは怖いですが、トルコリラは2018年以来の安値圏(当時)に迫っており、これ以上の下落余地はあまり大きくないように思われました。しかも、高齢化が進む日本と違ってトルコには若い人が多く、経済は高成長が続いているといいます。

私は虎の子の定期預金が2.7倍になって返ってくる未来を想像し、「もうこれしかない」と思うようになりました。新入社員の頃の日本のような、頑張るほどに世の中がグングン便利になって給料も上がっていく世界が、はるか遠いトルコで再現されているような気がしたのです。

そう、この債券の真実を知るまでは――。

“夢みたいな”高利回り債券に潜む落とし穴は?村上さんは危機を回避できたのか? 後編へ続く>>

※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。