〈前編のあらすじ〉

仕事一筋に生き、家族を養ってきた村上勝彦さん(仮名)。出世競争からは脱落したけれど、もうこれ以上ポストに執着はない。子どもも独り立ちするので、これからは自分のために時間とお金を使い、老後の準備も始めようと思い始めた矢先、キャバクラ嬢のハルカ(仮名)に夢中になって通い詰めてしまいます。

ヘソクリも尽き、「これではいけない」と広告で見つけた利回り10%超の「トルコリラ建て債券」に心惹かれて……。村上さんはキャバクラ通いで失ったお金をトルコリラ建て債券で取り戻そうとするものの、果たして?

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おトクな金融商品を見つけ、妻は喜んでくれると思ったのに……

10%超という夢のような利回りのトルコリラ建て債券のすっかり魅了されてしまった私は、500万円ほどあった虎の子の定期預金で投資をしようと決めました。狙い通り償還された10年後に2.7倍になるのなら、1350万円になる計算です。

しかし、このお金は私の小遣いではなく、夫婦の貯蓄です。さすがに私一人の判断で勝手に引き出すわけにはいきません。キャバクラ嬢のハルカにヘソクリを使い果たした後ろめたさもあって、妙に卑屈な態度になりながらも、証券会社が送ってきた資料を手に、妻の葉子(仮名)に切り出してみました。

「すごい利率の債券があるっていうから、老後のために買ってみようと思うんだけど、いいかな? 10%以上の利回りらしいんだよ」

「10%以上!? すごいじゃない!」

という答えを期待していた私に、妻が見せたのは、怪訝な表情でした。

「定期預金に入れてもほとんど利息がつかない時代よ。そんな夢みたいな話、怪しくない? どうしてそんな高利回りが実現できるの?」

思いもよらない反応に、私はしどろもどろになりながらもなんとか答えました。

「え、えーっと……、外国だからだよ。低金利の日本と違って、外国には金利の高い国があるんだ。トルコはその筆頭なんだよ」

「どうしてトルコがそんなに高いの? 外国といったって、アメリカや欧州の先進国はどこも低金利だと聞いたことがあるけど」

「え? それは、そうだな……。トルコは成長してる国だから、たぶんアメリカとはちょっと違うんじゃないのか……」

「そんな曖昧な理由で大事なお金預けるつもりなの? もう! ちょっと待ってて」

妻はあきれ顔でスマホを手にして、なにやら操作をし始めました。誰かに連絡を取っているようです。

「友達がIFAに相談してすごくよかったって言っていたから、紹介してもらうことにしたわ。その怪しい債券の資料を持って行って、見てもらいましょうよ」

「あ、あいえふ……? なんだそりゃ」

「証券会社とは独立した立場で資産運用のアドバイスをしてくれる専門家なんですって。売る側の話だけを聞いて買うのは危ないし、セカンドオピニオンみたいな感覚で相談してもいいって言ってたわ」

単純な性格だと思っていたのに、意外と慎重なところがあるんだなぁと思いながらも、後日そのIFAの事務所を2人で訪れました。IFAは“Independent Financial Advisor”の略で、「独立系ファイナンシャルアドバイザー」とも呼ばれる職業なのだそうです。私たちを担当してくれるという川島さん(仮名)というIFAは、30代後半ぐらいの穏やかな雰囲気の男性で、印象は悪くありません。私は早速、トルコリラ建て債券のパンフレットを見せて、「500万円を1350万円にできるという債券なんですが、これ、買ってもいいと思いますか?」と単刀直入に尋ねました。

「ふーむ……、村上さんはこの債券の有利な面に注目し過ぎているようですね。500万円の投資が1350万円になる計算ということですが、逆に損した時にいくらになるかを考えたことはありますか?」

私は何も答えられませんでした。