激しい出世競争にさらされながら、中堅商社の企業戦士として平成から令和の時代を駆け抜けてきた村上勝彦さん(仮名)。バブル世代で就職こそ売り手市場の恩恵を受けたものの、その後は専業主婦の妻と一人娘のために、ガムシャラに働いてきました。

そんな村上さんに約2年前、突然降りて来た辞令がいわゆる「部下ナシ管理職」。もうこれ以上の昇進は見込めず、定年までの立ち位置が見えてしまったことを悟りました。それでも、これからは仕事はほどほどに気楽に生きていこうと気を取り直したところへ、驚くべき高利回りの金融商品と、妻以外の女性という甘い誘惑が忍び寄りました。

村上勝彦さんプロフィール〈現在〉
関西在住
56歳
男性
会社員・管理職
現在、専業主婦の妻と社会人2年目の長女と3人暮らし
金融資産800万円

出世コースから外れて…心の隙間にふわりと舞い降りた女性

若い頃から仕事一筋に生きてきました。収入は多いわけではありませんが、中小企業に入った友人たちに比べたらずいぶん恵まれていたと思います。一人娘は中学から私立に通わせましたし、年に1度は妻と娘を海外旅行にも連れて行き、私自身はカネのかかる趣味も持たずに家族のために仕事に打ち込んできました。

しかし、今から2年ほど前、私におそらく最後と思われる異動が申し渡されました。いわゆる「部下ナシ管理職」です。それなりの肩書と手当はもらえるものの、役員をゴールとする出世コースからは完全に外れたことを通告されました。悔しいけれど、うすうす分かってはいたことだし、役員のポストは限られているのだから仕方ありません。幸い、娘も独り立ちするタイミングでもあるし、これからは自分自身のために生きていいということなのでしょう。仕事はほどほどにして自分の人生を楽しみ、以前から興味を持っていた投資にもトライして老後の資金も貯めていかないとな、と気を取り直しました。

そんなとき、学生時代の悪友から「久しぶりに一杯行こうぜ」と誘いが。居酒屋で盛大に飲んだ後、酔った勢いで誘われるままキャバクラに飛び込みました。この手の店は接待で利用したこともありましたが、もう誰に気を遣う必要もなく好きなだけ楽しんでいいんだ、そう思えると心が躍りました。ここで相手をしてくれたキャバクラ嬢が、ハルカ(仮名)という女性でした。

ハルカはこういう職種の女性としては地味なタイプでしたが、清楚な雰囲気で酔った私が繰り出すくだらない話や愚痴を、興味深そうに聞いてくれました。口数は多くはなく、終始穏やかな眼差しを向けてくれる姿が印象的で、すっかり気に入ってしまいました。幸い、ここは接待で使っていた店ほど高くはない、またハルカに会いにこようと決め、LINEも交換しました。

もちろん、自分は50代の冴えないオジサンだということは分かっています。若い女性とどうにかなりたいなんて、そんな大それた下心を抱いたわけではありませんでした。ただ、彼女といると、なんだか自分も若い頃に戻ったように高揚して、時間を忘れてしまうんです。家では女房とほとんど口も利かないというのに、この店に来ると饒舌になってしまう。あっという間に時間が過ぎてしまうんです。

そんなささやかな非日常の時間を過ごすことで、単調だった毎日に張り合いが感じられてきて、週に1度は店に通うようになりました。家で待っている妻の葉子の顔がチラつくことはあったけれど、別に浮気をしているわけじゃない、ちょっと飲み屋で気晴らししているだけで誰でもやっていることだ、と自分に言い聞かせていました。