失いかけていた夫婦の絆を、IFAが取り戻してくれた

川島さんは「この商品に限らず、金融商品には必ずリスクとリターンがあるので、その両方を理解したうえで、そのリスクを取れるかどうか判断する必要があるんです」と続けました。

川島さんによれば、トルコのような高金利の新興国はインフレで通貨の価値が下がりやすいからここまで高金利になっているのであり、実際には利益(償還差益)よりも通貨下落による損失が上回るケースも多いということでした。うまくいけば想定以上の利益が得られる可能性もあるけれど、失敗した場合の損失も大きいのだそうです。

しかも、日本円で18円程度(当時)の1トルコリラは、日本円と交換する際に1円ほどの為替手数料がかかることも珍しくないのだとか※。その場合、投資するときと円に戻すときで合計2円もの為替手数料がかかるので、大きな利益を出すのは難しいのだそうです。18円のものに2円もの手数料を取られたら、利益は削られるじゃないか……これを知らずに買っていたら、と思うと背筋がぞっとしました。

※編集部注 金融機関やネットか窓口かによって為替手数料は異なります。

「一般的な収入の人が老後のために資産形成したいと思うなら、あまり大きなリスクは取るべきではありません。すでに"王道”の資産運用ができている人であれば、この債券のようなハイリスク商品を少額持つのも悪くありませんが、村上さんのように資産運用が初めてという方にはお勧めできないですね」

その説明を聞いた私と葉子は、ほぼ同時にこう言いました。

「だったら、その“王道”を教えてください!」

まるで「せーの!」と示し合わせたように発言がシンクロしたので、私と葉子は顔を見合わせ、思わず吹き出したのでした。

つられた川島さんからも笑顔がこぼれ、小さな会議室は笑いに包まれました。

「もちろん、お手伝いさせていただきますよ。これから一緒に村上さんご夫妻に合った無理のない資産運用の方法を考えていきましょう」

「よろしくお願いします」

「そのためには無駄な支出を抑えて、家計をある程度引き締めることも大切です。保険の見直しや節税でも出費は減らせるので、こうしたお話も並行して進めていきましょう」

私と葉子はもう一度顔を見合わせて、うなずき合いました。その日は、次の面談の日程を決めて、川島さんの事務所を後にしました。

2人で歩く帰り道、「ここに相談に来なかったら、大失敗していたかもしれないんだな」と、葉子の機転に改めて感謝の気持ちが湧いてきました。今まで子育ても親のこともすべて任せきりだったし、いつしか家でも言葉を交わすことが少なくなっていましたが、これからはお金のことはもちろん、夫婦のこれからのことをちゃんと話さないとな、という思いが湧いたのでした。

「なんだか腹減ったな。せっかくだからこのままメシでも行かないか」

立ち止まって、ちょっとびっくりしたように私を振り返った葉子は、ニッコリ笑ってこう言いました。

「どういう風の吹き回し? でも、いいわね。私、おいしいパスタが食べたいな」

ハルカには悪いけど、キャバクラに散財するのはもう卒業だな。これからは葉子と過ごす時間と、その時間を充実させるためのお金を大事に育てないとな――心からそう思えたこと、この帰り道の光景を今でも鮮明に覚えています。

***
 

以来、投資信託を中心にした「長期・積立・分散」投資という"王道”でコツコツとお金を育てています。そして来る“老後”どんなふうに過ごそうか、ああでもないこうでもないと葉子と話す――そんなことが日々のささやかな楽しみです。

前編「出世コースから外れて…心の隙間に忍び寄る“夜の街”と“高利回り債券”のキケンな誘惑」もチェック>>

​※個人が特定されないよう事例を一部変更、再構成しています。