インデックスファンドとは、日経平均株価やNY(ニューヨーク)ダウなど、ベンチマークとして掲げた指数に連動するよう設計された投資信託のこと。シンプルな仕組みと、コストの安さが魅力である。最近は、つみたてNISAを中心に米国株式指数のインデックスファンドが人気を集めているが、インデックス投資そのものについては残念ながらまだ誤解も多い。そこで今回は、いま一度原点に立ち返り、インデックスファンドと上手に付き合うためのコツを確認しておきたい。

「インデックス投資=低リスク」ではない

チェーン店のレストランが、マニュアルに沿った運営によってコストを抑えながら一定水準の味やサービスを提供しているのと同じように、インデックスファンドもルールに則った運用を行うことで、コストを抑えた運用を実現している。

このコストの安さと商品性の分かりやすさから、インデックス型の投資信託を「初心者向け」でかつ「低リスク」と、早合点してしまっている投資家も多いように見受けられる。しかし、これは都合の良い解釈であると言わざるを得ない。

というのも、インデックスファンドそのもののリスクは、連動を目指す指数(ベンチマーク=市場平均)と同程度であって、それ以上でもそれ以下でもないからだ。例えば、連動を目指す指数が日経平均株価なら、期待できるリターンは日経平均株価とおおむね同じ。リスク水準もまた、日経平均株価と同程度である。

なお、冒頭で触れた近年人気を集めている米国株式のインデックスファンドの場合、短期的な価格変動の目安は30~40%程度である。これはつまり、短期的には基準価額が30~40%上昇する可能性がある一方、同程度下落する可能性もあることを意味する。向こう5年以内の使途が決まっている資金や、年金受給予備軍の退職金の運用先としては、いささかリスクが高い。「インデックスだから安心」という過信は禁物である。

リスク軽減のカギとなるのは2つの「分散」

では、なぜ投資初心者にもおすすめとされるつみたてNISAやiDeCoで、インデックスファンドの選択肢が多いのか。それは、ファンドそのもののリスクが低いからではなく、「長期分散投資」と相性が良いからということにほかならない。

マーケットにリスク=不確実性は付き物である。リスクが増大すると、損失が発生する可能性も高まる。しかし、長期投資でこの損失発生の可能性を一律に軽減できるかというと、必ずしもそういうわけではない。長期投資がリスク軽減の観点で本領を発揮するのは、2つの「分散投資」を同時に実践した場合である。

具体的には、購入タイミング(=時間)を分散させる「時間分散」と投資対象を分散させる「資産分散」のこと。この時間分散を実現できるのが、つみたてNISAやiDeCoを含む投信積立であり、広範囲の資産分散を実現できるのがインデックス投資というわけだ。

タイミングではなく時間に投資をするという考え方

また、別の視点で長期投資の重要性を掘り下げていくと、「長い目で見れば世界経済は拡大していく」という前提がある。

国際通貨基金(IMF)は今年6月、2020年の世界経済の成長率(実質GDP伸び率)をマイナス4.9%に下方修正し、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う各国の経済的損失が想定以上に深刻化しているとの見解を示した。同時に、見通しの不確実性が高いこと警告しつつも、感染拡大の終息が期待される2021年には、新興国を中心に5.4%のプラス成長へ回復するとも予想している(下図参照)。

世界の経済成長率の推移と予測

このように、世界の経済成長率は短期で見ると大きく上下することがあるが、長期で見るとGDPの累積成長率に与える影響はさほど大きくない。こうした世界経済拡大の恩恵を着実に受けるためには、特定の地域だけではなく、世界全体に目を向けることも重要になる。

先述の通り、コロナ後の景気回復は中国を含む新興国が主導するとみられる。株式市場が好況なときというのは、どうしても目先の高いリターンを追い求めて、この原理原則を忘れてしまいがちになる。米国のテクノロジー関連銘柄が右肩上がりで推移するのを見て、それら銘柄に集中的に投資したい衝動に駆られるのも無理はない。集中投資も投資方法の1つではあるが、インデックスファンドに投資する目的が「長期分散投資の実現」なのだとしたら、やはり特定の地域や業種に偏った投資は避けるべきであろう。

とりわけ日本の場合、TOPIXなどのインデックスを通じて市場全体に投資しても、米国のように資産が2倍3倍になるという未来を描きにくい。いわゆるタイミング投資の呪縛から逃れられない投資家が多いのには、こうした日本の株式市場固有の要因も関係しているだろう。国産分散投資においては特に、タイミングではなく時間に投資することの重要性を覚えておいてほしい。

「インデックスファンドの父」の教え

前回の本コラム(バンガードの日本撤退から考える、「貯蓄から投資へ」の課題と今後)では、インデックスファンドのパイオニア、米バンガード・グループの日本撤退について取り上げたが、同グループの創業者で「インデックスファンドの父」と呼ばれる故ジョン・ボーグル氏は生前、頻繁に売買を行う株式取引を「投資家の敵」であると非難していた。ETFを含むインデックスファンドが、タイミング投資のツールとして使われることについても強い嫌悪感を示していた。ボーグル氏の教えに従うなら、インデックス投資家というのはひたすらに受動的に、長期にわたって、広範囲でかつ高度に分散されたポートフォリオへの投資に専念すべきだ。

インデックス投資は、パッシブ(受動的な)運用の一形態である。インデックスファンドで積立をするなら、市場が大きく動いても「受け身」に徹すること。市場の大きな調整局面で焦ってファンドを入れ替えたり、欲をかいて追加購入したりすると、市場が思わぬ方向に動いたときに傷口が広がり身動きを取れなくなるためだ。先行きの見通しが立てにくい今のようなときこそ、どっしりと構えることが重要だ。