去る8月27日、世界最大級のインデックス運用会社である米バンガード・グループは、同社の日本拠点での営業活動を段階的に終了し、日本支社を閉鎖する旨発表した。

報道によれば、アジア事業の見直しを進める中で、このたび日本と香港からの撤退を決め、今後は中国本土市場に経営資源を振り向けていくということのようである。2000年の日本支社の設立から20年が経過し、日本でもようやく積立投資が浸透し始めた中での「撤退」の一報は、いささか残念に感じたと同時に、日本における資産形成ビジネスの難しさを痛感した。

インデックスファンドのパイオニア、バンガード・グループとは?

ここで今一度バンガード・グループについて解説をしておこう。同社は、1976年に初の個人投資家向けインデックスファンドを売り出した、低コストインデックス運用のパイオニアとも言える運用会社である。創設者である故ジョン・ボーグル氏の強力なカリスマ性とリーダーシップのもと、「長期・分散・低コスト」を合言葉に、これまで400本を超える投資信託やETF(上場投資信託)を世に送り出してきた。グループの総運用資産は6兆米ドルを超え、今もなお世界中の投資家から支持を集め続けている。

日本では、2000年の事業開始以降、ETFを中心に個人向けの商品を展開してきた。そのほか、バンガードのETFや投資信託を活用した国内籍の投資信託も十数本運用されている。例えば、代表格の「セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド」(セゾン投信)は、ファンド・オブ・ファンズ形式でバンガードのインデックスファンドを束ねている。また、「楽天・バンガード・ファンド」シリーズ(楽天投信投資顧問)は、米国市場に上場されているバンガードETF®等に投資する形で運用されている。

今回の一報を受け、これら商品の運用に支障が出るのではないかと心配した投資家も多いかもしれない。結論から言うと、現存するETFや投資信託については、現在と変わりなく今後も海外拠点にて運用が継続されるため、心配する必要はない。今回閉鎖が決まった日本拠点のバンガード・インベストメンツ・ジャパンには、元から運用拠点としての機能はなかったため、新規購入や保有商品の売却はもちろんのこと、つみたてNISAやiDeCoを含む投信積立についても影響はない。この点については安心してよいだろう。

しかし、以下の2つの点については、今後日本の投資家に影響が及ぶ可能性が高い。

1点目は、日本の投資家のための日本語による情報提供である。すでにバンガード・インベストメンツ・ジャパンは、同社のウェブサイト、ツイッター、ニュースレターの段階的な閉鎖・提供終了を表明している。

そして2点目は、日本の投資家に向けた新たな商品の展開である。先述した日本国内で展開されているETFや投資信託は、日本支社が国内の投資家のニーズをくみ取り、米国本社との橋渡し役を担っていたからこそ実現できた側面が大きい。今後、バンガード・グループが新たな商品を組成したとしても、日本での展開は現実には難しいとみられる。海外市場に上場するETFであっても、日本で個人投資家向けに商品を展開する場合は、金融庁長官に対して「外国投資信託に関する届出」を行う必要があるためだ。