「家計をスリム化」「貯蓄から投資へ」などの一般論に流されない

一般的なファイナンシャルプランナーや金融機関の営業担当者であれば、「定年後に備えて家計をスリム化しましょう」だとか、「多額の資産を預貯金に眠らせておくのはもったいない」といったアドバイスをするかもしれません。しかし私は、支出が多いことが必ずしも悪いと思いませんし、一律で投資を推奨する姿勢にも否定的です。

資産が少ない人であれば、一刻も早く支出を減らして収支を改善する必要がありますが、資産を持つ人が第二の人生を謳歌しようというときに節約を強いるのはナンセンスです。お子さんに十分な財産を残したいという希望があるなら別ですが、そうでなければリタイア後の人生を充実させるほうがずっと価値あるお金の使い方ではないでしょうか。

ただ、老後は現役時代ほどの労働収入が期待できませんから、今あるお金を守ることは大切です。こうしたニーズがある人にとって、「減らない」という預貯金のメリットは大きく、決して消極的な選択肢ではありません。リスクを取って増やすことも重要ですが、あくまである程度安心できる金額を預貯金に確保したうえで挑戦するべきだと考えています。

福島さんは高収入の割に預貯金額は1000万円と少な目ですが、代わりに企業型確定拠出年金や自宅という形で資産を形成しています。自宅は時価評価が1億円と高額で、広さも100平方メートル超と立派ですが、同居している一人息子であるご長男はいずれ独立する可能性もあります。当面は退職金の一部を運用して利益を積み上げながら預貯金を取り崩し、不足しそうなら自宅を売却してコンパクトな家に住み替えることで差額を現金化できます。

福島さんに自宅を売却する可能性についてお話したところ、受け入れられるということだったので、生活費を切り詰める必要はないと判断しました。

もうこれまでと同じ生活はできないのか、自分の預貯金額は少なすぎるのか、と不安に思っていた福島さんでしたが、第二の人生もこれまでと同じように楽しめると分かると安心したご様子でした。