「少々困った人物」として扱われていた「50過ぎの長男」

「そうだよねー! 遺言書がないから揉めてもしょうがないよねー!」

深刻な内容にもかかわらず、満面の笑みを浮かべながら口にする高雄さん(仮名)の様子は、どこか異常にも見えて、私はうっすら恐怖さえ覚えた。

高雄さんは今年で50歳を過ぎたが未だに定職に就いた経験はない。もちろん収入が安定したことは過去一度たりともない。親族の中では少々困った人物として扱われている。

彼の父である政男さん(仮名)は、高雄さんのことは困った息子だと思っていたが、高雄さんの娘で、政男さんの孫に当たる梨乃さん(仮名)のことは不憫に思い、長年にわたり彼女の学費や生活費を支援していた。

しかし、この「優しさ」が、後のトラブルの火種となることを、誰も予想していなかった。

「孫には苦労させたくない」

高雄さんは子どものころから「軽い」性格だったようだ。高校卒業後も定職にはつかずフラフラしていて収入も不安定。娘の梨乃さんの進学など、考える余裕さえなかった。

一方、高雄さんの父である政男さんは安定した会社で新卒から定年まで真面目に働き、堅実に貯蓄を重ねてきた。そんな自分と比べると、高雄さんがあまりに頼りなく見えるのか、政男さんは、高雄さんの娘で、自身の孫にあたる梨乃さんの成長を見守るうち、

「梨乃には苦労させたくない。少しでも良い教育と経験を積ませてやりたい」
と思うようになり、高雄さんを通じて梨乃さんの学費や生活費を援助し始めたという。

そのおかげもあって、梨乃さんは高校に進学。そのまま有名私立大学まで何不自由なく卒業することができた。

進学先での授業料はもちろん、生活費、交際費や課外活動費まで、ほぼすべての費用が祖父の政男さんからの支援で賄われた。

一見すると温かいエピソードではあるが、裏ではひそかに家族間の軋轢が生まれていたのである。