<前編のあらすじ>
花枝の14歳の息子・隆は、2カ月前から不登校となり、自室に閉じこもる日々が続いている。夫は単身赴任中で、花枝は母親としての責任感から相談できずにいた。
ある日、花枝は隆に声をかけるが「学校には行かない」と怒鳴られ、言葉が届かない現実に打ちのめされる。優しく接しようとすればするほど、距離は開いていく。
夜、家計簿を広げながら塾の月謝や生活費を見つめる花枝。揺らいでいるのは家計ではなく、生活の土台そのものだった。「このままじゃだめだ」とつぶやき、夫へ打ち明ける決意をした。
●前編【「そういうのが無理なんだよ!」14歳息子の不登校、母親が“正論”で問いかけた瞬間に返ってきた怒りの叫び】
限界を迎えた母の告白
夜、花枝は寝室に入ると、通話ボタンをタップした。数回のコールのあと、スマートフォンから聞き慣れた低い声が聞こえてくる。
「もしもし。まだ起きてたんだ?」
「うん、ごめんね。遅くに……」
「いいよ、大丈夫。どうかした?」
少しの沈黙のあと、花枝は息を吸い直すようにして言葉を紡いだ。
「隆のことなんだけど……ちょっと、ううん、だいぶ前から、学校に行けてないの。黙っていてごめんなさい」
言ってしまった。それだけで喉の奥がじんと熱くなる。だが夫はあまり驚いた様子を見せず、冷静に応じた。
「そうか……隆は今、どんな調子なの?」
その柔らかい口調に、少しだけ力が抜ける。声が震えないよう、努めて落ち着いた調子で続けた。
「朝も起きられなくて、塾も行かなくなって……話しかけても、あんまり返ってこない。無理に聞き出そうとすると、怒るの。私……何もできてなくて」
「いや、できてるよ、ちゃんと」
即座に返されたその一言が、胸にじんと染みた。
「花枝ひとりに任せきりにして悪かった。正月もほとんど一緒にいられなかったし……でも、ありがとう。ちゃんと話してくれて」
花枝は何も返せず、ただスマートフォンを強く握りしめた。夫の声は少し間を置いて、穏やかに続く。
「あのさ、いとこの姉ちゃんのところの子、覚えてる? あの子も、しばらく学校行けなかったんだって」
「あ、そういえば……前に聞いたことある。小学校の時でしょ」
「そうそう。でもフリースクールに通いはじめて、少しずつ元気になった。今は普通に中学校に通えてる。姉ちゃんが言うには、たとえ学校に行けない理由を直接解決できなくても、そういう場所があるって知れたのが大きかったって」
彼が何を提案したいのかは理解できる。だが、すぐにはうなずけなかった。
