受給累計額の逆転が90歳過ぎになるのはなぜ?

繰下げ受給が65歳の前月までの期間で計算された額であることを理解した有美子さん。しかし、まだ疑問があります。「なぜ、逆転時期は90歳過ぎなのですか? 82歳だって聞いています。税金や社会保険料を引いて手取りで考えたらそうなるのですか?」と尋ねます。

職員は「税金や社会保険料は加味していない額です」と答えましたが、ここまで逆転時期が遅くなることについて職員自身もよくわからず、90歳を超える年齢に半信半疑なくらいです。

実はこれは2022年から始まった在職定時改定制度が影響しています。在職定時改定は、65歳以上70歳未満で厚生年金に加入している場合、掛けてきたその保険料が毎年老齢厚生年金の額に反映されるものとなります。具体的には、基準日(9月1日)時点で厚生年金に加入していると、その前月(8月)までの厚生年金被保険者期間を基礎に再計算され、基準日の翌月分(10月分)から老齢厚生年金が増える仕組みです。

もし、有美子さんが繰下げをせず65歳から受給すると、2022年の制度施行以後70歳になるまで毎年その恩恵が受けられ、毎年すこしずつ年金が増えていたことになりますが、70歳で繰下げをすると、その恩恵がまったくありません。そして、有美子さんの老齢厚生年金は、65歳前の加入期間で計算された額(6万円)より65歳以上70歳未満の加入期間で計算された額(16万円)が多くなっています。このことも影響して、82歳よりかなり遅い時期に逆転時期が来てしまっていたのでした。

有美子さんの最終判断は…

70歳まで繰下げのために老齢厚生年金の受給を待った有美子さんですが、ここで老齢厚生年金を70歳からこのまま繰下げが選択できるだけでなく、65歳に5年遡って65歳開始(繰下げなし)で受給することもできます。

有美子さんは繰下げ受給が自身の予想とは違っていたこともあり、また、将来、光昭さんが先に亡くなった場合に支給される遺族厚生年金は繰下げ増額分も含めた老齢厚生年金で調整されることも知り、繰下げをせず65歳に遡って受給することに決めました。

70歳で繰下げ受給をすると42%増額されると言われていますが、増額にはルールが定められています。特に65歳以降で厚生年金に加入する人は事前にこの点を確認しておくとよいでしょう。

※プライバシー保護のため、事例内容に一部変更を加えています。