家族に告げる悲しい報告
賞与カットを言い渡された週の日曜日、家族揃って家で晩ご飯を食べているときに里英が子どもたちに説明をしてくれた。
「今年の旅行だけどね、ちょっと今年は趣向を変えてお家でゆっくりと楽しむことになったわ。一緒にお家で映画とかドラマを見て楽しく過ごしましょう」
さすがに賞与カットなどの生々しい説明は省くしかないだろう。しかし予想通り利香は拒絶反応を見せる。
「えー! なんでー! 今年もみんなとカチューシャつけて遊びたかったのに!」
昨年初めて家族でテーマパークに行ったのがよほど楽しかったのか、利香は帰りたくないと泣き出してしまった。来年も来ようと言って慰めたのだが、結局その約束を守ることができなかった。
里英は笑顔を崩さず泣いている利香に話をしているがなかなか納得は得られなかった。
「わがままを言うなよ。遊園地なら来年でも行けるしカチューシャなら家の中でも着けれるだろ。だから我慢しろ」
猛の言葉に利香は黙り込み、そのまま泣いてしまった。
猛はきっと旅行が中止になった理由についてなんとなく気付いている。だからこそ利香を止めてくれたのだろう。これ以上自分たちに迷惑をかけないようにという猛らしい気遣いだった。
しかし猛の気遣いが余計に稔の心を傷つけていた。稔は心の底から自分自身が情けないなと思った。
●賞与が大幅にカットされ、家族旅行を諦めざるを得なくなった稔。娘の利香は涙を流し、息子の猛は気を遣って妹をなだめる。家族に申し訳ない気持ちでいっぱいの稔だった…… 後編【ボーナスカットで旅行中止…家族に罪悪感を抱え続けた父親が"幸せの原点"を思い出した特別な出来事とは】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
