冬の賞与面談で、稔は部長から賞与額が大幅にカットされると直接聞かされた。

45歳になり、今の会社で20年以上働いていてきたがこんなことは初めてのことだった。部長は稔自身に何か問題があったわけではないと説明をする。原因は建築資材の高騰と金利上昇により契約者の減退。賞与カットされたのは稔だけではなく、全社的な大幅カットだった。

稔は重たい気持ちで仕事から帰宅する。妻の里英になんと話そうか。玄関の棚の上に飾られている、昨年、家族旅行で行ったテーマパークで撮った写真に収められた笑顔が稔を責めているように見えた。

「お帰り。ご飯できてるから手を洗ってきて」

里英はいつものように出迎えてくれた。稔は里英から目をそらして洗面台に向かった。

時刻は10時を回っている。リビングには子どもたちの姿はない。賞与はカットでも仕事は山積みなので、また子どもたちと一緒にご飯を食べることができなかった。普段は出迎えをしてくれることもあるが、今日はそれぞれが何か夢中になってるのか、それとももう眠っているのか、出迎えはなかった。ただ今日だけはそれで良かったのかもしれない。子どもたちの顔を見ると自分のふがいなさをより一層感じることになる。

稔は食事をしながら、賞与の件を里英に話した。

「実は今年は賞与が大幅にカットされることになるらしい」

「え? そうなんだ」

里英はわずかに驚いた顔をする。

「なんかいろいろと理由を言われたよ。まあ不景気だから仕方ないってことみたいだけど……。こっちがどれだけ働いても不景気には敵わないってことだな」

稔はそう言ってビールをぐいっと飲み干す。苦々しい気持ちを一気に胃の中に流し込む。