年末旅行の中止を決断
「まあそれは大変よね」
里英はあまり物欲や金銭欲がないためか、安穏とした様子で相づちを打っている。
そんな里英に少しだけ心が救われる。目くじらを立てられて怒られたのなら自分がどうなってしまうのか稔にも分からなかった。
それでも稔の心は重たいままだった。
「年末年始の旅行は難しそうだよな……」
年末はとにかく出費が多くなる。息子・猛、娘・利香へのクリスマスプレゼント、そして甥っ子姪っ子へのお年玉……。それらは毎年、基本的に賞与から出していた。
「そうね、今年の旅行は中止にするしかなさそうねえ」
自分で言ったのに里英が残念そうにつぶやくと、稔は胸が痛くなった。
毎年、稔たちは年末年始の休みを旅行で過ごすことになっていた。普段はなかなか忙しくて子どもの相手は里英に押しつけてしまっている。それを少しでも帳消しにするために毎年の旅行だけはできるだけ子どもたちの希望を叶えるようにしていた。海外旅行なんてことは無理だが国内で毎年いろいろなところに行ってたくさんの思い出を作ってきた。しかし今年はそれができなくなってしまう。
「……そうだよなぁ」
「しょうがないわよ」
子どもたちとの思い出が作れなくなる。それが一番辛かった。稔は自分が一番、旅行を楽しみしていたんだなと気が付いて、ため息をついた。
