1人で抱えない働き方へ

「悪いんだけどこの資料の整理、代わりにやってくれる? 娘のお迎えをしないといけないからさ」

綾香が声をかけると、久田は笑顔で受け入れてくれる。

「はい、もちろん大丈夫ですよ」

「ありがとう、今度ランチ奢る」

「まじですか! ありがとうございまーす!」

それから綾香は周りの人に自身の置かれている状況を伝え、協力を仰いだ。もちろん一方的に協力してもらうだけではなく、お互いの事情を理解し、持ちつ持たれつで仕事に向かった。親の介護や飼い猫の世話、好きなバンドのライブやコンサートなど、みんながそれぞれに事情を抱えながら働いていた。

これまでだってすぐ隣に、向かいに、座って働いていたはずなのに、そんなことを気にかける余裕すらなかったのかと、綾香は思った。

   ◇

仕事を終えた綾香はそそくさと会社を出て保育園へと向かう。園内に入ると他にもお迎えの父兄たちの姿があり、真莉愛が他のお友達と楽しそうにしている姿も見ることができる。

真莉愛は綾香の姿を見つけると一目散に駆け寄ってきた。

「あれー、真莉愛。今日もお絵描きしたの?」

「うん、なんでわかったの?」

「ほっぺにクレヨンついてる」

「わ、ほんとだ」

綾香は真莉愛を抱き上げて歩き出す。真莉愛の澄んだ瞳のなかで、綾香は小さく微笑んだ。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。