美咲と浩太の加勢
「でも黙ってついていった結果が、これなんです」
陽子は、静かに言った。声はかすかに震えていたが、逃げずにまっすぐに栄司を見ていた。
「ずっと、言えなかった。でも、もう我慢しない。私は、あなたに壊される前に、自分を守りたいの」
「おばあちゃんだって分かるでしょ。こんなのおかしいって」
陽子の震える声に続いたのは、美咲だった。
「おじいちゃんにあごで使われて、嫌だったことなかった? どうして家で毎日家事をやってるのに、威張りくさるのは男のほうなんだろうって感じたことなかった? 」
「そりゃ、あったわよ……でもね」
「でもじゃないんだよ。そういうこと、諦めなくていいし、諦めちゃいけないんだよ」
美咲の言葉は力強く響き、頼子の威勢を削いでいった。たとえ生きてきた時代が違っても、女だからこそ、妻だからこそ、頼子にもきっと分かる部分があるのだろう。
「父さん、もうやめろよ。これまで自分がやってきたことの結果なんだから」
ぼそりとつぶやかれた浩太の言葉がとどめだった。
栄司は椅子から立ち上がると、苛立ちをあらわにして言い放つ。
「勝手にしろ!どうせ全部俺のせいにして、被害者面するつもりなんだろ!」
鋭い怒声が居間に響き渡る。だが、栄司の声は頼りなく、もう陽子や2人の子供たちの耳には届かない。陽子の声が届かないことと同じように、もう分かりあうことができないのだ。
「お母さん、行こう」
「もう話しても無駄だよ」
2人に促されて、陽子は立ち上がった。事前にまとめておいた荷物を2階から下ろして、長く暮らしてきた家を後にした。
