最後の家族会議が開かれる

日曜の午後、福井家の居間には、5人分の座布団が置かれていた。

陽子、浩太、美咲、そして頼子。

しばらくして、書斎から栄司がのっそりと現れ、黙って最後のひとつに腰を下ろした。頼子は、最初に陽子に目を向け、それから子どもたちへと視線を動かす。

「本当に、あなたたちまで離婚に賛成なの? 馬鹿馬鹿しい」

浩太が腰を浮かせながら口を開いた。

「母さんが、自分の意思で決めたことだよ。俺たちは、それを支えたいだけだから」

栄司が鼻で笑った。

「勝手に騒いでるだけだ。お袋、気にしなくていい。こいつ、感情で物言ってるんだよ。俺が何かしたって言うなら、証拠でも出してみろよ」

挑発的な物言いに、隣の美咲がぴくりと反応した。

「証拠なんて、必要ないよ。子どものころから、ずっと見てた。お母さん、夕飯に文句つけられるたびに食欲失くしてた。話しかけても返事もされなくて、用事があるときだけ命令口調でさ……そんなのが、ずっとだったよ」

「言いがかりだな」

栄司の声が少し強まった。

「お前ら、子どもが親に向かってなんて口のきき方してんだ。勝手に思い込んでるだけだろ。俺は普通に接してきた。お前たちが母親に肩入れするのは勝手だが、俺を悪者にするのは筋が違う」

「普通?」

浩太が低く言った。

「母さんに“働くのはいいけど、自分の口座は持つな”って言ったのは誰? 生活費の使い道を細かく問い詰めて、ちょっと出費があると“何に使った”って怒鳴ったのは? それで“普通”なら、世の中の普通は壊れてるよ」

「それくらい当然だろ。こっちは働いてるんだ、金の流れを管理するのは当然だ!」

言い返しながら、栄司の声は一段と荒くなっていた。頼子がその様子を見つめる目が、徐々に鋭さを帯びていく。

「女は家を守るもんだろ。愚痴を言わずに、黙ってついてくればいいんだ」

「そうよ、日本はね、これまでそうやって家族を回してきたんだから。多様性だなんだって言ってもね、そういう部分は変わらないのよ。変えちゃいけないの」

栄司に続く頼子の言葉も鼻息が荒かった。

「おかしいじゃない。それにだいたいね、独りで生きていくってどうするの? いい年してみっともないじゃない。30年やってきたんだから、ねえ」