子のいない夫婦にこそ遺言が必要だった
夫は遺言のようなものは残していませんでした。けれど、税理士さんによると、私たちのような子供のない夫婦こそ実は遺言が必要なのだそうです。仮に夫が「全財産を妻に相続させる」という遺言を残していたら、きょうだいである義兄には、「相続人としての最低限の取り分が侵害されたことに対し、財産を相続した人に侵害額に相当する金銭の支払いを求める権利(遺留分侵害額の請求権)」がありません。結果として、遺言の内容を受け入れるしかないわけです。
しかし、現実には遺言がないので、法定相続分通りとすると、義兄には夫の財産の4分の1を相続する権利があります。頭が痛いのは、近年の時価上昇で自宅のタワーマンションも値上がりし、夫の相続税評価額の多くを自宅不動産が占めることです。私はフリーランスのため頭金を少し出した程度で、ローンも全額、夫名義で組んでいました。結果として、マンションの持ち分割合は夫が9、私が1となっています。
この年齢で恥ずかしい話ですが、亡くなった時点で預貯金は2人合わせて1000万円程度。「夫が定年を迎えたらそれなりに退職金も入ってくるだろう」くらいの気持ちでいたのです。
生命保険も葬式代程度しかかけておらず、夫の会社からは死亡退職金が1800万円ほど支払われましたが、現預金をかき集めても、義兄に渡すお金が準備できるか微妙なところでした。
それでも何とか支払わないと、あの義兄につきまとわれたりしたらたまりません。
両親や姉からは、1人でそんな立派なマンションに住んでいても持て余すだけだし、これからは自分で生計を立てていかなければならないのだから手元に現金を持っていた方がいいと売却を強く勧められました。
マンションは最寄り駅から徒歩圏内の好立地で、大手不動産会社が手掛けた物件だったこともあり、売る気になれば、買い手はそこそこつきそうでした。
