カーテンの隙間から部屋に差し込む朝日が帯のように揺蕩っている。何とも気持ちの良い朝だ。

しかし、スマホのアラームが3度鳴っても、夫の祐司が起きてくる気配はない。沙織は冷蔵庫からヨーグルトを取り出し、食パンをトースターに突っ込みながら、寝室に向かって声を張り上げた。

「祐司ぃー。まだ起きないのー? あんまり遅いと電車混むよー? 今日は、お盆明けなんだから」

「うぅ……ん」

しかし、返ってくるのは獣のような呻き声だけ。

慌ただしい日々で見落とした夫の異変

「あちっ! ちょっと焼きすぎたかも」

沙織が焦げかけたパンを皿に移した頃になって、祐司はようやく起きてきた。テーブルに座るが、トーストに手を伸ばさない。スープを前にしても、カップから立ち上る湯気を眺めているだけだ。

「ちょっと、祐司大丈夫? もしかして夏バテ?」

冗談めかして笑うと、祐司は口の端だけで曖昧に笑った。

「まあ、そんな感じ」

「ええー、大丈夫? 一応、熱測っとく?」

「いや、いい」

心ここにあらず、という言葉がぴたりと当てはまる。

だが、社会人の朝は忙しい。夫にばかり構ってもいられない。さっと朝食を食べ終えた沙織は、「行ってくるね」と鞄を肩に掛けて振り返った。

「うん」

「いってらっしゃい」の言葉がなかったことに違和感を覚えたが、それも一瞬のことだった。なぜなら職場では、お盆明けのメールが滝のように流れていたからだ。クライアントへの返信、資料の修正、会議の予定。ほとんど席を立つ暇がなく、手洗いにも満足に行けない状況が続く。昼食にありつけたのは、午後3時をとうに過ぎてからのことだった。

こうして沙織の怒涛の1日は過ぎていった。