会員制レストランじゃないの?
それから1週間後、本当に悟は店を予約してくれた。美弥子は待ち合わせに指定された駅の改札前で悟を待っていた。
「……じゃあ行こうか」
現れた悟はあいさつもなしに少し不機嫌な様子でさっさと歩いて行ってしまう。その態度に少しいら立ちを覚えながらも美弥子はついていった。
悟は繁華街から離れ、人通りも少ない路地に入っていく。いわゆる隠れ家的なお店なのかなと期待したが、悟が立ち止まったのは赤いのれんが出ているごく普通の定食屋だった。のれんは薄汚れていて、店前にミックスフライの食品サンプルが置かれているが、完全に日に焼けてしまっていておいしそうには全く見えない。
悟は何も言わずその店に入っていく。美弥子は驚きつつも悟の後に続く。夜の19時過ぎという時間にも関わらず店内はまばらで、空席が目立っていた。
「こ、こういうお店に来るんだ?」
「普段は来ないよ。今日は特別。あんまり高級な店に行ったら美弥子さんが緊張してしまうと思ってね。美弥子さんのレベルに合わせたんだよ」
最後の嫌みにまた怒りを覚えた。もしかしたら店を選べと言われたことへの嫌がらせをしてこんな店をわざと選んだのではないかと思った。
そんな不満をおくびにも出さず、美弥子は時間を過ごした。料理の味はおいしかった。たしかに悪い店ではないし、美弥子自身こういうところは嫌いではない。
ただ今日は会員制のレストランに連れて行ってくれるのではなかったのだろうか。張りきったわけではなかったが、いつもよりもきれいめなワンピースを着てきた自分がばかみたいだった。