<前編のあらすじ>

41際の美弥子は3年前の離婚で痛い思いをしてから、結婚に経済力は欠かせない要素だと感じていた。そんな中、マッチングアプリで1つ年上の悟に出会う。自称・会社経営者の悟は会員制のレストランに通い、タワマンに住むセレブだった。しかし、何度デートを重ねても、仕事の内容や家庭環境について触れると、言葉をにごしてしまう。また、高級ホテルや高級外車の写真もネット検索のものばかりで、悟が一緒に写っているものはなかった。

「写真は苦手で」と言いわけをする悟を疑い始めた美弥子だったが……。

●前編:会員制レストラン、高級外車、タワマン…マッチングアプリで出会った「自称・会社経営者」の男性が眉を曇らせた理由とは? 

「本物」の可能性は捨て去ることができず…

美弥子の抱く疑念は悟に会うたびに募ったが、決定的に白黒をつけることはできなかった。

仕事の話をするのも写真に写るのも本当に嫌で、店を選べないほどに毎日忙しいという可能性だって捨て去ることはできない。何よりも悟はいい人だったし、一緒に過ごす時間は楽しかった。

その日も、いつものように美弥子が選んだ小洒落た居酒屋でお酒を飲みながら楽しく会話をしていた。

「次は悟さんがオススメするところに行ってみたいです」

美弥子がはっきり告げると、悟は案の定顔を引きつらせる。

「……いや俺の行く店ってちょっと敷居が高くて、正直オススメできるものではないんですよ。それに俺は美弥子さんが紹介するお店がとても好みでね。できれば今の感じを続けたいんだけど……」

「もちろん私もお店をたくさん紹介したいです。でもたまには悟さんが行きつけのお店とかに行ってみたいですよ。不平等じゃないですか」

美弥子は冗談っぽく言ったが、引き下がる気はなかった。

「……そんなに俺の行ってる店が知りたい?」

「もちろんです。それに私ばかりお店を決めたりしてるんですよ。それだって大変なんですからね。予約取ったりとかもしないといけないし」

悟は不満そうな顔でハイボールを飲んでいる。

「……俺だって一応頑張って会話を盛り上げるようにしてるしさ。美弥子さんが普段から行き慣れてるお店の方が楽しく過ごせるのかなと思って選ばせてるんだよ……。それをストレスみたいに言われるとちょっと……」

「そのお気遣いには感謝してます。おかげで悟さんとはいつも楽しい時間を過ごせてますし。でも、たまにはいいじゃないですか。私も、悟さんが行くような会員制のお店、行ってみたいんです」

美弥子は譲らないだろうと感じたのか、悟はため息をついて折れた。

「……分かったよ。次は俺が店を決めるよ」

「ありがとうございます。楽しみにしてますね」