友人たちから一言
「寿子さん、課題進んでます?」
「ええ、そうね。少しずつだけれど、先生が紹介されていた文献を読んだりしてるところ。でも、もう年だから集中力が続かなくてねぇ。何であんなに文字小さいのかしら」
「うわぁ、さすが寿子さん。ちゃんとやってる」
「翠なんて、バイトばっかで全然だもんね」
「仕方ないじゃん。来年の留学費用、自分持ちなんだから」
翠は卒業後、海外の大学院に進学したいらしく、語学などの勉強に余念がない。親があまり協力的ではないのか、経済的な問題なのかは寿子のあずかり知るところではなかったが、自分の将来を考え、行動している様子は年の差なんて関係なく尊敬できるところだ。
「いいわねぇ。私なんて、海外どころか国内の旅行だってほとんど行ったことないのよ」
「え、そうなんですか。なんで?」
「私は行きたかったけど、主人が休みの日はゆっくりさせろって言うもんだから」
「自分で行こうと思ったりは? 友達とか、親とか」
「そんなの無理よ。あの人、ひとりじゃお湯だって沸かせないんだから、私がお世話してあげないとダメなのよ」
寿子にとってはごく当たり前のことだった。だから何気なく話したつもりだったけれど、香菜や翠はきれいにかたちを整えた眉をひそめていた。
「それ、絶対おかしいですよ」
「うちらの世代じゃ考えらんないよね」
「……そうなの?」
寿子が首をかしげたところでチャイムが鳴った。教授が教室に入ってきて、寿子たちは雑談を取りやめて前を向いた。