夫の懸念は現実にはなったが
もちろん、夫が言っていたことはその通り現実になった。黒板の文字や投影されるスライドの資料を見るのは、最前列の席でも一苦労だし、そもそも90分座り続けていることが身体的に辛い。履修登録のシステムを使うにはパソコンを開かなければいけないし、レポート提出や休講のお知らせなどもメールを確認しなければいけない。慣れないことだらけな上に、2回生になった今も慣れた実感はこれっぽっちもない。
それでも寿子が通学を続けられているのは、きっと出会いに恵まれたからだと思っている。
「寿子さん、おはよー」
「あら、香菜さん。翠さん。おはよう」
「隣いいー?」
「もちろん。どうぞどうぞ」
寿子は隣の座席の上に置いていた荷物を自分の足元へ下ろし、空いたスペースとそのさらに隣の席に2人の女学生が収まった。
香菜と翠は大学に入ってからできた友人だ。入学式後の新入生ガイダンスで右も左も分からず途方に暮れていた寿子に声をかけ、パソコンの使い方から履修登録のやり方まで嫌な顔せず教えてくれた。
2人のように体力はないので放課後に夜遅くまで遊んだりすることは、寿子にはできなかったが、それでもこうして学内で会えば言葉を交わし、一緒に授業を受け、学食で昼食を食べたりするような仲だ。