離れて暮らす娘の安否は

新幹線の座席に身を沈めながら、早苗はずっと携帯を握りしめていた。

凛子から連絡が返ってくるかもしれないからだ。心配でたまらない。だが、こんな事態になるまで知らせてこなかった会社に、同時に怒りにも似た感情が胸の奥で渦巻いていた。

体調が悪くて倒れたのかもしれない。事故にでもあったのかもしれない。それなのに無断欠勤を1週間も放っておくなんて、信じられなかった。

だが湧いた怒りはすぐに、別の感情にかき消されていく。

早苗は安心しきっていた。あの子は大丈夫、しっかり者だからと気にかけず、「ちゃんと食べてる?」と、気づかうような一言すらかけなかった。

どうか無事でいてほしいと願った。

窓の外には、青々とした初夏の空が広がっていたが、景色に意識を割く余裕はなかった。

●後編:【「体が動かなかった…」毎日の残業に上司の叱責…新卒入社から1カ月で心が壊れかけた娘に母が告げた言葉】にて詳細をお届けする。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。